おいしく食べる、シンプルに暮らす|サルデーニャの伝統料理

地中海の真ん中に位置しているという地理的な特徴から、侵攻のため、あるいは交易のために、さまざまな場所から人とものがサルデーニャ島には集まってきた。そもそも先史時代から人類が住んでいたヨーロッパ大陸でもっとも古い土地だとい […]

05/15/2014

地中海の真ん中に位置しているという地理的な特徴から、侵攻のため、あるいは交易のために、さまざまな場所から人とものがサルデーニャ島には集まってきた。そもそも先史時代から人類が住んでいたヨーロッパ大陸でもっとも古い土地だという話もある。そんな多様な要素を包括してこの島は、ほかのどこかに似て、それでいてどこにも似ていない、独特な文化を育むことになった。
世界的にも希有な紀元前の建造物ヌラーゲ(島内に7~8,000ある世界遺産)や古代ローマの遺跡、発祥は何千年も前という羊飼いの歌カント・ア・テノーレ、ラテン語の原形と考えられている土着のサルド語…。いにしえからの歴史のレイヤーが、いまでも人々の暮らしに息づいている。ヨーロッパでもっとも古いお菓子(セアダス)だとか、地中海でもっとも古いワイン(カンノナウ)だとか、伝統的な羊飼いの生活に根ざした保存食(カーネ・パラザウ)だとか、日常的に庶民が口にしている食べ物にしてもそうだ。
食に関してもっとも大きく分けるなら、肉と魚で区切るのがおもしろい。内陸部では基本的には肉、おもに羊肉を食べる。羊の数が人口の倍以上というこの島を旅していれば、かならずたくさんの牧羊に遭遇するから、そのことは想像に難くない。そして侵攻者はいつでも海からやってきたために、サルデーニャ人にとって海は不吉な存在だった。だから沿岸部には人は住まず、結果、海のものは食べてこなかったという歴史もある。そうした背景をもつ現在のサルデーニャ人にとって、羊肉は家でいつも食べるもの、魚は外で食べる特別なものという認識があるらしい。だから肉料理がメニューにない店も多いという。ただし、例外もある。侵攻の歴史以前、古代から残っているいくつかの港町では、伝統的に魚を食べてきた。州都カリアリもそれに該当する。
サルデーニャを旅したことがある友人にも、カリアリの宿の主人にも、Lillicuには絶対に行ったほうがいいと推薦された。新鮮な魚料理が食べられる、カリアリで評判の老舗トラットリアだ。たしかに気取らない店員の態度も好ましく、どれを食べてもとてもおいしい。しかし海はすぐそこ、新鮮な食材を手に入れて素材の味を活かした伝統料理を出す店は、この界隈でほかにいくらでもあっていいはずだ。それなのになぜ、この店がとりわけ人気なのか。
「太陽が降り注ぎ、目の前には海があり、食べ物と自然の恵みにあふれてる。それでいて都会の要素も併せ持っている。僕は海外に住んでいたことがあるからよくわかるんだけど、ここはヨーロッパでいちばん美しい場所だよ。僕らのこの土地に対するリスペクトの気持ちがきっと特別なスパイスになって、料理をおいしくさせてるんだろう」
Lillicuのフランチェスコ・ズッカさんのこの言葉には、サルデーニャ人のスタンスが凝縮されている気がする。現代人があらためて憧憬を向けているような本質的に人間らしい生活とは、身のまわりのものへの感謝と畏敬の念を土台にシンプルに生きることなのではないだろうか。それが、彼らにとってはいたって“普通”のことなのだ。だからここではスローフードや地産地消といった定義はいらない。スローライフという言葉も必要ない。
たとえばこれは実際に遭遇した場面だけれど、ひとたび食事となると、家族、友だち、その友だちとどんどん人が増えていき、そのたびに「サルーテ!」と言いあって乾杯をする。それが店なら、隣の席の客とも「サルーテ!」となって、輪はもっと大きくなる。家族や友人とごはんを味わう。客があれば諸手を上げて歓迎し、その場に居合わせた人たちと、いま、このひとときを存分に楽しむ。それが「サルーテ」=健康であって、人間にとっていちばん大事な根本なのだと、サルデーニャの人たちはよく知っている。
Trattoria Lillicu
Via Sardegna 78, Cagliari
TEL: 070 652 970
www.lillicu.com