神さまが棲む森、プナのジャングル暮らし

ワイルドな原生林を自分たちで切り拓き、小さな畑と小屋を切り盛りする日本人夫婦がいる。風の吹くまま、気の向くまま、自然のリズムに寄り添って生きる。プナのジャングル発、「root down farm」流の暮らし方案内。 東京 […]

02/18/2019

ワイルドな原生林を自分たちで切り拓き、小さな畑と小屋を切り盛りする日本人夫婦がいる。風の吹くまま、気の向くまま、自然のリズムに寄り添って生きる。プナのジャングル発、「root down farm」流の暮らし方案内。
東京からロサンゼルス、サンフランシスコ、そしてオアフ島を経てハワイ島へ。「もともとはシティボーイ、シティガール」というゼンさん・アリナさん夫妻が、ダイナミックな自然に囲まれた半自給自足な暮らしを志してたどり着いたのは、ハワイ島東部にあるプナ地区だった。ハワイ火山国立公園を擁するこの地区はハワイ島きっての農業エリアであり、オーガニックファーミング&サステイナビリティを実践するコミュニティが点在している。電気もガスも上下水道も整備されていない、この3エーカー(3,600坪)のジャングルにひと目惚れしたふたりは、2012年にここに移住。手探りで開墾しながら、自分たちの王国、「root down farm」を築いてきた。
ふたりが現在暮らす母屋と、アトリエとして使っている「網戸ハウス」と呼ばれるキャビン、ゲストハウスとして貸し出している正多面体をモチーフにしたバンガローの3棟は、いずれもゼンさんがコツコツとセルフビルドで仕上げたもの。建物の間には自分たちの食卓を十分に賄える、多品目栽培の自然農法菜園がある。それとは別にバナナやパパイヤ、マンゴーといった果樹の林も。トイレはコンポスト、エネルギーは太陽光、水は井戸水。プロパンガス以外を自給するオフグリッドの暮らしだ。「人間は自分たちが快適と思う暮らしをどこにでももち込もうとするけれど、ここでは環境に合わせた暮らししかできないから」と、アリナさん。
経験、あるいは失敗は知恵の源泉である。雨が続けば発電できなくなるし、排泄物の堆肥は強すぎて、合わない作物があることも、失敗を重ねてわかってきた。
「越してきた当初はメインランドでの経験を基にしていたから、日当たりのいい場所に菜園をつくったけれど、ここの日差しは強すぎるうえ、日照時間も長すぎちゃって」(ゼン)
日差しよりもむしろ、土の質が作物の出来を左右する、なんてことも、実際にここで農業をやってみたから理解できたこと。何年経っても試行錯誤の連続、だからものづくりはおもしろい。
 大学生のころからいつか農業をやりたいと思っていたゼンさんは、アリナさんと結婚してメインランドの西海岸に暮らすようになったころからアーバン・ファーミングに取り組み始めた。
「もう少し自然のあるところに暮らしたいねって、とりあえずメインランドからオアフ島に移住して、そこで本格的に土地を探し始めました。条件は、視線を遮る電線がないこと」(アリナ)
カウアイ島もマウイ島も見たけれど、とりわけ緑が色濃いプナのジャングルに惹かれた。熱帯の樹々が美しいアーチを描くジャングルロードを通ったとき、直感的に「ここだ!」と思った、とアリナさん。この道路沿いに土地をもつオーナーを登記簿で探し出し、土地を譲ってほしいという手紙を全員に送ったというから、すごいバイタリティである。
キラウエアを擁するエリアだからこそ、大地のエネルギーに触れられる反面、火山にまつわるハラハラも多い。3年前には近隣のパホアの街の入り口まで溶岩が迫った。もし道路が溶岩に飲み込まれれば、この一帯は完全に孤立してしまう。半自給自足の生活を営んでいるとはいえ、彼らだってキッチン用のプロパンガスや車のガソリンは必要だ。
「半自給自足世帯が多いこの界隈のコミュニティではもともと“クロップスワップ”という物々交換が盛んで、足りないものをお互いに補い合おうという精神が息づいています。けれど、あのときはそれ以上に『みんなで助け合ってここで生きていこう』という機運が盛り上がって、なんだか頼もしかったな」(アリナ)
「馬をもっている人が馬で必要物資を調達しにいくとか、週に1回、ヒロまでボートを出そうとか、みんなからポジティブなアイデアがどんどん生まれて。結局、溶岩はパホアの外側で止まったのですが、新しい価値観が生まれそうな未来像にわくわくさせられました」(ゼン)
そんなファーム暮らしも今年で7年目。ゲストハウスとして用意したバンガローには、この地の自然の息吹に触れてみたいと世界中から旅人が集まってくる。
「僕はアリナほど直感が鋭くないにしろ、ここが何がしかの癒しの場所になるという確信があります。緑や風、雨、日の光、すべてに癒しの力があって、それが最高のギフトになる。ここで誰かが癒されるために、僕たちはこうやって小屋や野菜をつくり続けているのかな」(ゼン)
ふたりが勧めるのは、「何もしない」という過ごし方。約束も予定もなく、ジャンルのなか、自分だけのひとときを過ごす。それは世界で最も贅沢な時間なのだ。
root down farm
www.rootdownhawaii.com