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馬のいる風景|PAPERSKY japan club

馬と人との歴史は長い。初め狩猟の対象だった馬が家畜となったのは今からおおよそ5,000年前。馬を飼い慣らしたことで人間の暮らしは大きく変わった。大量の荷物を遠くまで運搬し、荒れ地を開拓し、広い農地を耕作できるようになった […]

01/03/2018

馬と人との歴史は長い。初め狩猟の対象だった馬が家畜となったのは今からおおよそ5,000年前。馬を飼い慣らしたことで人間の暮らしは大きく変わった。大量の荷物を遠くまで運搬し、荒れ地を開拓し、広い農地を耕作できるようになった。もちろん遠い距離を短時間で移動できるようにもなった。馬は人間の暮らしや文明の発展に大きく寄与してきた。多くの現代人にとって馬は日常から遠い存在になってしまったが、そんな馬と人の暮らしが近かった時代を思い起こさせるものが伝統工芸や郷土玩具の世界に今でも残っている。
上の写真にあるどこか似ている2頭の馬の置物。左は「ダーラへスト」と呼ばれるスウェーデン中部のダーラナ地方に伝わる伝統工芸、右は長崎の郷土玩具のひとつ、古賀人形の馬である。 
ダーラへストの歴史は古く、元は親が子どものおもちゃとして木をナイフで削ってつくったのが始まりで、古くは17世紀ごろから土地のみやげものとして売られていた。伝統的なダーラヘストは朱赤の地に白や黄色や緑で馬具などが素朴に描かれたものが一般的だが、ダーラナ地方にはダーラへストをつくるたくさんの工房があり、地域や工房によってさまざまな色や形、模様のものがある。写真の白地に赤や青で彩色されたダーラヘストは10年以上前に仕事で訪れたストックホルムの手工芸店で購入したものである。その後、これによく似た土人形を松本の民藝店で見つけたときは驚いた。それが古賀人形の馬だった。
古賀人形は長崎県長崎市中里町(旧古賀村)の郷土玩具で文禄年間からつくられているというからおよそ400年の歴史をもつ。粘土でつくるいわゆる土人形で、京都の伏見人形、宮城の堤人形とともに「日本三大土人形」といわれている。江戸時代唯一の開港地である長崎で生まれた人形だけあってモチーフも色使いもどこかエキゾチックなところが特徴だ。写真にあるのは「花馬」と呼ばれる飾りつけされた白馬の人形。躍動感のある形といい、色使いといい、たしかに日本のものらしからぬモダンな雰囲気がある。
遠く離れたスウェーデンと日本に伝わる小さな馬の伝統工芸品は、ともに馬との暮らしを育み、馬を愛してきた民族とその文化の証である。この馬の置物を眺めながら馬が身近だったころの暮らしや環境をときどき想像してみるのもよいかもしれない。