スイスのパスーガー社で、ミネラルウォーター工場見学

古代ギリシャの時代から、西欧では水が湧きでる泉を神聖な場所として大切にしてきた。アルプス山系の水脈に恵まれたスイスには、美しい泉や水源地が多い。今回はそのひとつ、ラビオス渓谷から湧くミネラルウォーターを販売するパスーガー […]

01/15/2013

古代ギリシャの時代から、西欧では水が湧きでる泉を神聖な場所として大切にしてきた。アルプス山系の水脈に恵まれたスイスには、美しい泉や水源地が多い。今回はそのひとつ、ラビオス渓谷から湧くミネラルウォーターを販売するパスーガー社を訪ねた。
19世紀末、スイスの裕福な人々の間では、飽食からの太りすぎが大きな問題になっていたそうだ。肥満に悩む人たちがその療養のために訪れたのが、クールの街から山間部に上がっていった山村パスーグだった。村のすぐ近くにはラビオス渓谷があり、この渓谷では、癒しの効果があると信じられてきたミネラル豊富な5種類の源泉が湧く。療養に訪れた人々はその水を飲んだり林道を散歩したりしてダイエットに勤しんでいたいう。このような飲水療法を広めたのが、パスーグで創業し、いまも質の高いミネラルウォーターを提供しているAllegra Passugger Mineralquellen社(以下、パスーガー社)だ。
そもそも、スイスにはミネラルウォーターのメーカーが9社あるが、その大半が大手企業であるため、ミネラルウォーターはさまざまな飲料や食品のなかの一商品に過ぎない。そのような飲料業界において現在、パスーガー社はガス入りの「パスーガー」とガスなしの「アレグラ」の2種類のミネラルウォーターに特化して製造、販売する独自のスタンスを貫く。創業は1896年(正確には前身のPassugger Heilquellen社の創業年)。当時、創業者のウルリッヒ・アントン・シュプレッヒャー氏が金を探しにラビオス渓谷に降りていったところ、たまたま湧き水を発見したのが始まりだ。
「ラビオス渓谷で特別な水が湧きでることは400年ほど前から知られていました。もともとは動物が飲んでいるようすを見て村人が気づいたといわれています。1562年にクールの文官が書いた知人宛の手紙のなかでラビオス渓谷の湧き水と不思議な力についての記述が見られます」と、パスーガー社CEOのウルス・シュミッドさんは話す。
湧き水を発見したシュプレッヒャー氏は創業と同時に、水を汲みあげてボトル詰めする工場と療養に訪れる人のためのホテルやスパ、診療所を建て、遊歩道を整えた。最盛期には、パスーグの村には数多くのホテルやレストランが建ち並び、各地からダイエットや病気療養のために人々が集まっていたという。いまはほとんどのホテルが営業をやめ、療養所は専門学校に変わってしまったが、パスーガー社ではいまも同じ5つの源泉の水をブレンドし、パスーガーを生産している。
ぜひ源泉を見てみたいとシュミッドさんにお願いすると、土砂崩れの危険性があり源泉までは行けなかったものの、すぐ近くまで快く案内してくれた。源泉付近までは、現在の工場から山道を歩くこと約15分。創業当時の工場などは土砂崩れで倒壊してしまって現存しないが、1951年に建てられたドリンキング・ホールがいまも残っている。
木造のホールに入ると、正面に5つの大きなガラス製のウォーターサーバーが設えられていた。サーバーには左から「パース」「ヘレナ」「オリコス」「フォルナコス」「ヴェルヴィーナ」と、それぞれの源泉の名前が表示。いまでこそ中身は空っぽだが、当時は各源泉のミネラルウォーターで満たされていたのだろう。病気の症状に合わせて5種類のミネラルウォーターの配合比が決められていて、訪れた人は目盛りつきのガラスカップに決められた量の水を注いで飲用していたという。自分だけのミネラルウォーターをブレンドできるというわけだ。
5つの源泉をブレンドするパスーガーに対して、アレグラの源泉は豊富な水量を誇る。そのため、ブレンドはせず、ひとつの源泉から湧きでた水を全長2.3kmにおよぶステンレスパイプで工場まで引きこみ、そのままボトル詰めしている。ちなみにアレグラの源泉が発見され販売が始まったのは1992年のこと。「水の源泉はたくさんありますが、質のいい源泉、すなわちミネラルのバランスがよく味わいのよい水が採れる源泉は、多くありません」(シュミッドさん)と、新しい水源を見つけだすには長い時間を要するという。
アレグラの源泉は、工場から歩いていけるパスーグとは異なり、車で山道を10分程度上がったところにある。周辺は放牧地で、牛の糞をよけながら歩いていくと、小さなコンクリートの建物が見えてきた。めったに人が入ることができないという建物の内扉の奥に、岩の隙間から水が湧きでる泉があった。1年を通じて水温は8°C、1分間に120ℓのミネラルウォーターが湧きでている。シュミッドさんの許可を得て、湧き水をカップに汲んで味わう。喉ごしがなめらかで、すーっと体に染みこむようだった。秘められた場所で湧きでたばかりの水を飲むというぜいたくなシチュエーションも相まって、そのおいしさは格別だった。
ところで、パスーガー社の前身Passugger Heilquellen社は一時期、大手飲料メーカーの傘下に入っていた時期があった。それをクール出身のシュミッドさんが2005年に買い戻し、パスーガー社として再出発。「私たちはミネラルウォーターに特化して商品の質を極めることを考えています」。シュミッドさんの言葉どおり、たとえばボトルのデザインひとつにも徹底的にこだわる。昨年は、建築家のバレリオ・オルジャティがデザインした美しいガラス製ボトル入りを発売した。
「このガラス製ボトルは、実用性とデザイン性を兼ね添えたものになっています。片手でも握りやすいフォルムは、すっきりとしていて美しい。また、ボトルに直接プリントすることで、紙の帯の煩わしさを排除しています。このボトルをレストランで見たら、持って帰りたくなりますよね」と、シュミッドさんは胸を張る。
「大手メーカーには、川の水を濾過して、ミネラル分を添加してミネラルウォーターとして販売しているものもあります。たしかに量は供給できますが、私たちが求めているものは量ではなく質なのです」。パスーガー社の水は病院でも提供されていて、同社の水に変えると、患者がよく水を飲むようになるらしい。科学的な裏づけはないものの、「おそらくお腹に溜まらず、吸収率がいいのでしょうね。私も毎日飲んでいますよ」。そう話すシュミッドさんは、はつらつとした笑顔のすらりとした紳士だった。
Allegra Passugger Mineralquellen AG
7062 Passugg
TEL: +41 81 256 50 50
www.passugger.ch
japan.passugger.ch/jpn/-1
This story originally appeared in Papersky No.40. Text: Aya Kaiden