鉄刀の切っ先 | マタギ Akita Mountain Hunters 2

マタギたちは、ずっと荒々しい自然の腕のなかで激しく揺さぶられてきた。自然との愛すべき闘いに勝つためには、槍、刀、鉄砲などの武器が必要である。かつて力を持ったマタギが北秋田などの地域を支配しようと試み、危険な集団であると目 […]

02/24/2015

マタギたちは、ずっと荒々しい自然の腕のなかで激しく揺さぶられてきた。自然との愛すべき闘いに勝つためには、槍、刀、鉄砲などの武器が必要である。かつて力を持ったマタギが北秋田などの地域を支配しようと試み、危険な集団であると目された時代があった。現在は日本政府が、狩猟ができる時間、場所、方法を規制するようになっている。それでも、さまざまな規制の目をかいくぐって生き残り、マタギ文化を具現する存在となった武器がひとつある。山刀だ。
北秋田の鍛冶場で、西根登が山刀づくりの作業をしている。「スコップとか鍬とか、いろいろな道具をつくっているよ。けど、最近の人は農具をあまり使わなくなったね。ただ、マタギ用の山刀の注文は増えた。日本中の猟師が使う刀を私がつくっているんだよ」。山刀をつくる鍛冶屋は減少しており、腕さえ良ければ仕事が入り続けるという。だが、それは簡単な仕事ではない。
「山刀の刃は、台所で使う包丁とは違う」そう言いながら西根は、今鍛えている光る鉄片をかざして、先端の鈍い部分を示した。ここに鋼をかぶせて、強いながらも、よくしなる刀にするという。それから溶けた鉄を叩いて形を整える機械にスイッチを入れた。「そう、私は4代目の鍛冶屋だ」、機械が動きを止めたときに、西根は言った。彼には37歳の息子がおり、修業を続けているが、鍛冶の技術を受け継ぐまでにはさらに長い年月が必要だ。鉄を鍛えて山刀にする技術と微妙な力加減を習得しなければならない。また一方で、このような知識が次の世代にまったく継承されないこともある。
西根の師匠であった鍛冶屋は、13年前に亡くなってしまった。私たちは彼がかつて仕事をしていた工場を訪ねてみた。暗い部屋のなかに機械がぽつんと置かれ、そのまわりに彼が残したままのタバコの吸い殻があった。窓枠には虫の死骸がたまっている。彼の後を継げるほどの腕を身につけた人間は、分家である西根以外にいなかった。あとに残ったものは、この消えゆく技術の痕跡を伝える博物館だけである。マタギ文化もやがて博物館―虫の死骸が散乱したジオラマ―になる運命をたどるかもしれない。しかし、日本古来の狩人たちは幾度となく変化の波に襲われてきた。人間が守らなかったものはすべて歴史のなかに消え、クマは今でも恐怖の存在であり続けている。「これまでクマに遭ったことはないよ。遭いたくないねえ」、私たちが帰るときに、西根が言った。
 
西根登
鍛冶職人。西根鍛冶店当主。
 
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