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東へ西へ上ル下ル。自転車で京都、本の旅へ

便利な機器の普及により、本を携えて旅に出ることも減ったかもしれない。それでも、やっぱり好きなのだ。路地裏にある本屋さんへも、自転車なら渋滞かまわずスイスイ。京都、本日和。西へ東へ、目的地は本のあるところ。 珈琲とお気に入 […]

12/15/2016

便利な機器の普及により、本を携えて旅に出ることも減ったかもしれない。それでも、やっぱり好きなのだ。路地裏にある本屋さんへも、自転車なら渋滞かまわずスイスイ。京都、本日和。西へ東へ、目的地は本のあるところ。
珈琲とお気に入りの一冊、朝の静かな時間を。そんなことをイメージしながら「京都岡崎 蔦屋書店」へ、開店の8時に合わせて向かった。「地域性を大切にしている」と副店長の前川貴正さんが話すように、日本や京都の文化を伝える一角では、ガイド本のそばに伝統工芸作品を展示。縁起がいい亀甲紋をちりばめるなど、建物全体のしつらいが美しい。日本の暮らしコーナーには“あこがれの京都暮らし”などのセレクションもある。部屋のように区分された空間で、本と静かに対峙してホッとするひととき。ここで借りられる電動自転車で、書店員が手描きする近隣マップを片手に散策するのもよさそうだ。
京都を“本の町”と印象づけてくれる名物書店には、名物店員がいる。そのひとつだった「ガケ書房」は「ホホホ座」と改名し、哲学の道にほど近い町へ1km移動。「やけに本の多いおみやげ屋さんだなぁと思ってもらえたら」と、やさしくも確かな口調で話すのは元ガケ書房店主の山下賢二さんだ。新刊の本と、思わず一緒に買ってしまうような雑貨を扱う1階。そして古書と生活道具を扱う2階には、元「コトバヨネット」の松本伸哉さんがいる。ふたりはお店を開ける傍ら、本などの企画編集、その他さまざまな催しを仕掛けたり、オリジナル商品の開発や卸を着々と企んだりしている。「来てくれる人ががっかりするし、開いてるほうがええやん」と、2階のひとり店主松本さんはできるかぎり店を開ける。本の虫であるふたりは、ここを本屋とは言わない。でも心に残る大切な一冊を制作し、モノや本を“ここで買った”という思い出とともに売る。ややこしくて少々やみつきになるこの場所は、まさに京都らしくて、ますます京都が気になってしまうのだ。
そこから白川通りを北へ「恵文社一乗寺店」を目指す。書棚に並ぶ書籍全般は今、鎌田裕樹さんが一手に担当している。前店長をはじめとする名物店主への敬意をもって入社して2年足らずの25歳。「本に興味がない人も気になるように、1日200冊もの新刊から、自分が納得して“いいな”と思う本で本棚をつくっています。セレクトしているわりにジャンルの幅は広いんです。それは40年もの蓄積のあるお店だからこそ」。本好きな年配のお客さんには、この一冊がちゃんとある、と褒められることもある。本を探しているお客さんがいれば、親身になって一緒に探す。「本でなくても、雑貨や衣類が入り口でもいいんです。それでもとにかく地道に、訪れるお客さんと向き合って、地元から愛されるお店であり続けたい。僕にしかできないことを、少しずつていねいに」。
鎌田さんの前任は、十数年、恵文社の本棚を担当していた堀部篤史さん。彼は昨年11月末に自身の書店「誠光社」を開店した。「お店はこのくらい小さくないと維持できない。ここはアクセスがよくて路地裏の落ち着いた雰囲気もあるという、ちょうどいい地域なんです。好きなお店もたいがいこのあたりにあるので、お店も暮らしもどちらもとてもしっくりきています」。一乗寺からなら、鴨川沿いのルートを選べば信号知らずでおよそ15分の住宅地。2階に住まい、人を雇うのではなく夫婦で営む。そのやり方で、本を主体にどうお店をやっていくか。大手出版社や取次をとおすのではなく、出版社から直接本を仕入れてきちんと売る。可動式の本棚を動かせば30名ほど入れる店内で、本にまつわるイベントや展示にも積極的だ。レジの奥で、誠光社ブレンドの珈琲を飲みながら知り合いやお客さんと語らう堀部さん。さながら、彼の書斎へ招かれた心地になるのだった。
誠光社から寺町通をほんの少し南へ行くと「三月書房」がある。三代目の店主・宍戸立夫さんはまず、扱わない本を決め、他店にもアマゾンにもない新刊本を細やかに選書して本棚をつくる。「各分野の専門家がみんなうなりますよ。すごい」と関東から来ていたお客さんも感激していた。「すき間を狙わないとね。そうすればセレクトがオリジナルになって、こういう小さな店が生き残る。うちはインターネットとの相性もよかった。マーケットプレイスはすばらしい」そう話す宍戸さんが教えてくれたコミックには“一筋縄ではいかない京都人店主”としてご本人も、前述の店主たちとそろって紹介されていた。ホホホ座の山下さんが「みんなで宍戸さんの話を聞く会」を開くと話すように、尊敬する雄弁な先輩と、今の時代に合った商いをする後輩の古本飲み会なる集い。一度、覗いてみたいものだ。
「京都にまた丸善は戻るの?」そんなファンの声に応えるように、閉店から10年を経て昨年、復活を果した「丸善 京都本店」。取り扱う本の数は、京都随一。「建物がファッションビルということもあって親子での来店者が多い。ジャンルも幅広く、きちっと本がそろっている、という店づくりをしています」とは店長の西川仁さん。書棚の背の高さは、まるで本の壁。手にホコリ取りのブラシを持った店員さんたちは、圧倒的な広さのフロアを忙しく開店前の準備に動きまわっていた。海外からの訪問者も多い地域柄、洋書の種類は東京・丸の内本店と同じというから、たいていのものは見つかるのだろう。
町を横移動して、もし京都御所に突き当たったら? 迷わず、敷きつめられた砂利に、自転車のわだちが重なってできた小径へ。本を巡る旅は御所を抜け、西へと続く。小路から路地の奥へ、その京都らしい奥ゆかしさをくぐり抜ければ、本と雑貨に囲まれた空間に迎えられる。「娘が小学校に上がるときに、自分のお店をもとうと思って」そう話すのは「マヤルカ古書店」店主のなかむらあきこさん。仲間ふたりと始めた古本店経営を経て独立。若い女性のお客さんが多いというのも納得の店内は、本に加えて、なかむらさんが大好きなこけしや、おみやげにしたい工芸品や小物が埋め尽くす。それでいて掃除が行き届いた清潔感に感心する。「本を売りにくる人は毎日いらっしゃいます。自分が弱いジャンルでも、おかげで知らない本を楽しめるんです。レジ奥で夢中で読むことも(笑)」。文学や絵本、暮らしに民藝と増える蔵書は、常時イベントを行う2階にまでおよぶ。ここをきっかけに本を好きになる人も増えているのだろうと、そう感じさせてくれる場所だった。
店主の古賀鈴鳴さんが魅せられた本を並べる。またミュージシャンやデザイナーなどの蔵書を集め、彼らの本棚を覗けるような“世界棚”を置く。古賀さんはグラフィックデザインやアートディレクションなどの仕事に加え、縁あって越してきた京都で、古書店「世界文庫」の扉を開けた。「もう少し、人とつながっていくような場所があったらいいなと思ったんです」。学校での講師やイベントへも引っぱりだこの古賀さんは、自身の仕事やお店をとおして人がつながっていく体験を重ねるなかで、いつかやりたいと思っていたという学校「世界文庫アカデミー」を来年より始める。「各分野で活躍する人を講師に招いて、これからの新しい働き方を、学んで考える。そして、自分が叶えたいと思うことを実際にかたちにするんです」。ここには、未来を真剣に考えようとする人が世界を見るための扉も開かれている。
京都の喫茶店やカフェには、気負わず平然と本が並んでいることも多い。おいしい珈琲と本、立ち呑み屋と本、宿泊施設と本。そっと本が添えてあって、居心地がいい。「YUYBOOKS」のある松原通は、どこか下町の情緒も漂う商店街。そしてこの、カフェとショップとデザイン事務所を併設した建物の一角に、小野友資さんが選ぶアートブックが並べられている。出版社や作者と直接取引をした本をオンライン上で販売もする。一冊一冊、ていねいに紹介する写真と言葉に導かれ、ここを目指す。そして、カフェでまどろむのだ。「カフェ営業日も本の買物はできますが、本屋としては土日が開店日。普段はアプリやアニメーションをつくっています。通りの特性もあって、町のひとつとして機能する本屋になっているようで嬉しいんです。人と話す時間も増えました(笑)」。
「本棚をつくるのも編集」という堀部さんの言葉を、鎌田さんは忘れずにいた。本屋がそれぞれらしい催しを行なうのも編集で、「MAGASINN KYOTO」は本屋とは少し違うのだけど、場所そのものが編集されている。お店やギャラリーという機能を、泊まりながら体感する。そして本の特集のように定期的に、そこで体験できるできごとが変わるという。オーナーの岩崎達也さんは、自らを編集長とも名乗っている。本にかかわる業態を二つにも三つにもうまく言い表してしまう。これも、未来の本屋のあり方なのかもしれない。
 
Kyoto Book Store Ride 「本と自転車と京都」フェア
PAPERSKY52号発売に合わせ、今回ご紹介した本屋さんによるスタンプラリーを開催。自転車で巡って、プレゼントをもらおう!
詳細はこちら。
http://archive.papersky.jp/2016/12/14/papersky-presents-kyoto-bookstore-ride/
京都岡崎 蔦屋書店 real.tsite.jp/kyoto-okazaki/
ホホホ座 hohohoza.com
恵文社一乗寺店 www.keibunsha-store.com
誠光社 www.seikosha-books.com
三月書房 web.kyoto-inet.or.jp/people/sangatu
丸善 京都本店 www.maruzenjunkudo.co.jp
マヤルカ古書店 mayaruka.com
世界文庫 sekaibunko.com
YUYBOOKS yuy.jp
MAGASINN KYOTO magasinn.xyz
» PAPERSKY #52 KYOTO | BICYCLE Issue