光を写す唐紙の技|京都・かみ添

入り口から差し込む光が部屋の奥に届き、雲母によって摺られた唐紙に水玉文様を浮かび上がらせている。襖によって受け止められたやわらかな光は、日の傾きとともに時の流れを室内に映し込む。京都の西陣にある唐紙工房・かみ添は、唐紙職 […]

05/23/2011

入り口から差し込む光が部屋の奥に届き、雲母によって摺られた唐紙に水玉文様を浮かび上がらせている。襖によって受け止められたやわらかな光は、日の傾きとともに時の流れを室内に映し込む。京都の西陣にある唐紙工房・かみ添は、唐紙職人の嘉戸浩が2年前に開いた店。唐紙とは和紙に絵柄を摺ったものであり、江戸時代より襖紙として広く使われていた。
「昔の人は電気のない時代、自然と入ってくる光の加減で、時間を感じていたんだろうと思うんです。朝の光、夕方の光、お月さんの出た夜の光。ふすまの表情がふんわり浮かんでくるような、そうした微妙な光の加減の中で話をしたり、お茶を飲んだりしてはったんやろうなぁと」
嘉戸はアメリカで デザインを学び、グラフィックデザイナーとしての仕事を経験した。「唐紙に興味を持ったのは、アメリカにいたときのことです。大学の講義で、資料として出されるのが日本の美術品だったんです。浮世絵、日本画、枯山水など、日本よりも海外での評価が高いことを知りました。そこで唐紙に出合ったんです。文様の配置や間のとり方などのレイアウトが絶妙で、そこにはグラフィックのすべてがつまっていると感じました」
帰国後、京都の唐紙職人のもとを訪ね、刷師として5年間唐紙の事を学んだ。型押しという古典印刷技術でさまざまな版木を使い、手摺りにより文様を紙に写す。嘉戸が使う版木のデザインは、唐紙古来の伝統柄だけでなく、海外を旅した彼自身の経験から生まれるものも多い。
「イスラムのモスクで見た装飾が素晴らしくて、たくさん写真を撮りました。それが日本に昔からある七宝文様に似ていて、面白いと思ったんです。そういったものから版木のデザインを考えたりもします」
店の座敷の襖を飾っているのは、骨董屋から譲り受けたという古いトルコの版木を使った唐紙。長い時を経て出自を失った版木を手にしたとき、嘉戸は職人としての想像力によって再び生命を吹き込む。
「いつの時代のものか、何のためのものか全くわからないんです。でも顔料をのせてみると、どのように使われていたかなんとなくわかります。この版木には欠けている部分があるんですけど、それはどこかにぶつけてかけたんやないと思うんです、たぶん何度も使っているうちに自然にかけてしまった。何回も使ったり、木が朽ちたりして、職人さんのかけた時間が積み重なってこうなっている。だからそれも含めて版木が持つデザインだと思っています。唐紙には珍しい絵柄ですけど、色合わせは昔からの配色が多い。金地に浅葱色押し、粉地に雲母など、自然といいなと思うのが古来からの色合わせになるのも、きっと頭の中にこびりついているものなんでしょうね」
店の名前の由来でもある”添える“という言葉について尋ねると、紙は主役ではないから、と嘉戸は答えた。
「襖も空間のためにあるものだし、便箋も手紙を書くためにある。紙は何かに添えられるものだと思うんです。でも、ちょっといい便箋を使ったりすると、そういう気持ちが相手に伝わる。主役にはならないけど、控えめな、そういう気持ちを添えられるものでもあると思います」
唐紙職人としての技と、グラフィックデザイナーの感性が結びついた独特の唐紙。それはまた、唐紙を手にする人の想像力によって、さまざまな光を写しだす。
かみ添 Kamisoe
京都市北区紫野東藤ノ森町11-1
http://kamisoe.com/
展示会情報
2011年5月25日(水)〜31日(火)「和モダンを楽しむ暮らしのアート展」
阪急うめだ本店 12階
<参加作家>
かみ添(唐紙)・浦辻靖弘(木工)・今宵堂(陶芸)・坂井直樹(金工)
奈良井志野(漆芸)・波多野光(絵画)・須賀凌子(和布)
Photo:[1] 石川奈都子 [2] 斎藤さだむ、尹煕倉 「四角の話」 [3-5] 河合智子
インタビュー&構成:チームヤムヤム
Interview & text: Team YumYum