フィンランド人の生活を支え続けてきた木の文化を巡って

15年ほど前からだろうか、一種の「北欧ブーム」ともいえる状況を呈しているのはよく知られるとおり。スカンジナビア独特の家具や雑貨のデザインから人気に火がつき、福祉や環境に意識の高い国としても注目され、それは定着しつつ今に続 […]

08/20/2015

15年ほど前からだろうか、一種の「北欧ブーム」ともいえる状況を呈しているのはよく知られるとおり。スカンジナビア独特の家具や雑貨のデザインから人気に火がつき、福祉や環境に意識の高い国としても注目され、それは定着しつつ今に続いているようだ。こうした状況にあって、「北欧」という地域カテゴリーの認知は高まったものの、それぞれの国の固有の歴史や風土、文化の違いまではまだ深く目が向けられていないようにも見える。フィンランドが北欧諸国のなかでも国としてとても短い歴史しかないということも、あまり知られていない事実ではないだろうか。
フィンランドが国家として独立宣言をしたのが1917年だから、まだその歴史は100年に満たないことになる。12世紀から長らく東西の隣国であるスウェーデンとロシアからの統治を受け続けたこの地において、支配体制が変遷するなかで人々の拠り所としてあったもの。それはやはり古代から変わることのない広大な「森と湖」の風景だっただろう。南北に伸びる約34万km2の国土の75%におよぶエリアが森林地帯であるフィンランドの人口は約500万人。単純計算すれば1km2に15人しか住んでいないことになる(ちなみに日本は約340人)。つまりこの地において人間が住んでいるエリアはとても小さいわけだが、それは一方で人間以外の生き物たちにとって大変棲みやすい環境といえる。深い森にはキツネやヘラジカ、オオカミ、クマなどの野生動物が生息し、また彼らが食べる木の葉や実、樹皮、数千種にもおよぶきのこなどが生い茂っている。これらの植物が腐葉土をつくり、森の栄養源となる。
「森の恵み」に生かされてきたのはもちろん動物たちだけではない。農業に適した土地が比較的少なく、また冬季には雪に覆われ、暗く寒い日々が続く過酷な自然環境下で、森は人間の生活を支える場でもあった。人々はここで狩猟・採集に勤しんだだけでなく、そこにある豊かな木々をさまざまに生活に利用してきた。シラカバの樹皮は屋根や籠の材料、あるいは毛糸の染色材料として。マツやトウヒは住居の丸太材として。食器や家具、船などの木工の材料として。長い歴史のなかで、人はこの唯一の天然資源を最大限に活かす知恵を育んできたのだ。
こうした森と人間の深い関係は、近代化以前の話にとどまらない。現代においても、森林資源を利用した木材・製紙・パルプ関連産業は国の経済を支える基幹産業であり、またヘルシンキのような都市に住む人々にとって、湖畔のサマーハウスで家族との休日を過ごすことは大切な楽しみだ。夏は森を歩きベリーやきのこを摘み、湖にボートを浮かべる。冬はスキーやスノーシューで遊ぶ。
もうひとつ、彼らのライフスタイルにおいてとても重要なものがある。それは彼らがほとんどの家にもっているという「サウナ」だ。身体を温めて汗を流し、疲れを癒すだけでなく、家族団欒やご近所の社交の場でもあるサウナにおいても、木は欠かせない存在。現在では電気式のものが主流だが、かつては薪ストーブを使う伝統的なスモークサウナが一般的だった。サウナのなかでは、シラカバの若枝を束ねてつくった「ヴァスラ」で体を叩く。血行がよくなり新陳代謝を促し、シラカバから出るオイルが肌を潤してくれるという。
フィンランド人にとって、木々は大切な道具であり、森は癒しと遊びの場である。つまりは生活を支えてくれる資源であることに、今も昔も変わりはない。だからこそ、彼らは森を大切にしてきた。それは抽象的な自然保護の意識でなく、リアルな暮らしの現実から生まれてきたものだろう。人間を含むすべての動物たちを生かしてくれる「生命の源泉」である森に対する畏敬の念をもちながら、彼らはその保全と育成に携わってきた。その「生かし、生かされる」関係に、僕たち日本人が学ぶべきものは少なくないだろう。
 
マリアンナ・ジャマディ Marianna Jamadi
インドネシア人の父とフィンランド人の母との間に、カリフォルニアで生まれる。写真と言葉による表現活動を行う、ストーリーテラー。2013年、エル・カミノと共同で「Nomadic Habit」をスタート。旅のなかで感じた体験を美しい写真とエッセイで表現している。 www.nomadic-habit.com
» PAPERSKY #48 Finland | Wood Issue