台湾は「玄関を開けたら登山口」

3,000m級の山々が連なる台湾は、日本以上の山の国だ。そんな台湾のハイカーで、アメリカのパシフィック・クレスト・トレイルも踏破したノックス・ヤンとトワ・タイのカップルに、台湾の山の魅力やおすすめのトレイルについて話を訊 […]

06/19/2019

3,000m級の山々が連なる台湾は、日本以上の山の国だ。そんな台湾のハイカーで、アメリカのパシフィック・クレスト・トレイルも踏破したノックス・ヤンとトワ・タイのカップルに、台湾の山の魅力やおすすめのトレイルについて話を訊いた。
ノックス・ヤンとトワ・タイのカップルは、現在の台湾のハイキングカルチャーを象徴するような存在だ。彼らはプロフェッショナルのライターでもフォトグラファーでもないが、彼らのブログやソーシャルメディアには多くの読者がいて、これまでに2冊の本を出版している。
ふたりは2013年、フジロックフェスティバルで出会った。お互いに山が好きなことがわかると、南湖大山(台湾を代表する高峰のひとつ)を一緒に登ることを約束するが、その約束が実現するより先にふたりはつき合うことになった。
それからいくつもの山を一緒に歩いたふたりは2014年の暮れに結婚し、2016年、アメリカを縦断する超ロングトレイルの「パシフィック・クレスト・トレイル(以下PCT)」を歩くことを決意する。その決断の瞬間をノックスはこう語る。
「以前からトワがPCTについて調べていることは知っていたんですが、ある日、彼女から電話がかかってきて『アメリカのビザの期限は何日間なの?』と訊かれたんです。その瞬間、僕は『PCTに行こうとしているの?』と言って、その2日後に会社を辞めました。それからは山を歩くことを生活の一部とし、ずっとフリーで活動しています。(笑)」。
その後、ふたりは5ヶ月間をかけPCTを歩くための準備をしたが、台湾では情報がまったく見つからず、苦労したという。
「5ヶ月間も準備にあてたのに、PCTの最初の1週間で私たちの計画は装備から日程から、全部まちがっていることに気づきました」とトワは笑いながら振り返る。「でも、すべてが新鮮な体験で、人生観がまるで変わってしまうような大きな転機になりました」。
ノックスにとってもそれは、「人生のもうひとつの成人式」だったという。
「半年間、とても自由な時間を過ごしました。だからさまざまな物事について、もっと自由な目線で見られるようになった気がします。解釈や見方はひとつだけではないということを知りましたし、先入観をもたないで物事を見られるようになりました。山に登るときも、昔はどれだけ標高の高い山に登ったか、いくつ登ったかばかりを考えていたけれど、今は、山にいるときの自由な時間がいちばんすばらしいと思っています。何を達成したかよりも、山でどれだけ充実した時間を過ごせたかのほうが大事だと思うようになりました」
PCTを踏破した後、台湾のハイキングシーンで名の知られた存在となった彼らは、日本やスコットランド、イタリアのドロミテやスイスアルプス、スペインの「サンチャゴ巡礼の道」などを歩き、海外でのハイキングを楽しみつつ、台湾のあまり知られていないトレイル歩きも続けている。台湾で印象的だったトレイルを訊くと、トワは「樟之細路(Raknus Selu Trail)」を挙げた。
「去年は台湾北西部の(古い時代に台湾に渡ってきた漢民族で、独自の文化を現在も維持している)の人々の住むエリアを100kmくらい歩きました。とてもおもしろかったのが、客家の人たちとは言語が違い、台湾人同士なのに言葉が通じないんです。外国のトレイルを歩いているみたいで新鮮でした。夜は地元の人の家に泊まらせてもらったんですけど、とてもディープな体験でした。客家の文化は料理が有名だけど、それは表面だけ。その奥にある彼らの生き方や文化に触れられて興味深かったです」
一方、ノックスは特に日本人にお勧めのトレイルとして、阿里山の「阿溪縱走(A-Xi Trail)」を紹介してくれた。
「かつて阿里山の檜を運び出すために使われていた山岳鉄道の線路跡を歩くのですが、それは日本人がつくった道なんです。14のトンネルと21の橋を渡りながら、さまざまな歴史的なストーリーに触れることができます。1日目は廃棄された駅に、2日目は湖のほとりに泊まって、3日あれば歩けると思います。それと僕らがこれから歩こうと思っているのが、台北の淡水という街から東海岸の宜蘭まで続く「淡蘭古道(Danlan Historic Road)」です。こちらは古い交易路で3本の道に別れているのですが、それぞれ100kmほどあります」
最後に、ハイカーの目線から見た台湾の魅力を訊くと、トワからはこんな答えが返ってきた。
「台湾は小さい島ですが山がたくさんあり、都市からも近い。去年、私たちの家の近くの鹿港の海辺から台湾最高峰の玉山(標高3,952m)まで1週間かけて歩いたんですが、その旅に僕たちは『玄関を開けたらそこが登山口』とキャッチコピーをつけたんです(笑)。つまり台湾では山には行こうと思えばいつでも行ける。遠いとかいうのは言い訳にならない。台湾はそれくらい山が身近な土地なんです」
Knox Yang & Towa Tai
かつてドラマーとして音楽活動を行っていたノックスは、20代半ばで山に目覚め、現在、フルタイムハイカーとして山を歩き、執筆活動を行う。トワはグラフィックデザイナーで、フィルムのアートディレクター。ふたりは2013年、フジロックで出会い、結婚。2016年にはアメリカのパシフィック・クレスト・トレイルを踏破している。