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ハナレグミ|旅に出て、内なる自分を手に入れる

2006年は、永積タカシにとって変化の年だった。クラムボン・原田郁子とポラリス・オオヤユウスケとのコーラスユニット「ohana」の結成や、活動を休止していた自身のバンド「SUPER BUTTER DOG」の復活など。20 […]

11/24/2010

2006年は、永積タカシにとって変化の年だった。クラムボン・原田郁子とポラリス・オオヤユウスケとのコーラスユニット「ohana」の結成や、活動を休止していた自身のバンド「SUPER BUTTER DOG」の復活など。2006年が始まるときから、今年は新しいなにかを見つける時間にしようと思っていた、と彼は言う。そのためには、東京を離れて旅が必要だということはわかっていた。だからいつもよりもスケジュールは空けぎみにして、思い立ったらいつでも出かけられるようにしていたのだという。どうして旅が好きなのだろう。どうして、旅が必要なのだろう。
 
古巣の疑似感覚
「俺、あんまり観光には興味ないんです。それよりは、そこで生活している人たちに会って、彼らのそばにいたいと思う。だから、旅はけっこうノープラン。沖縄に行ってドミトリーに泊まったりしても、出かけるというよりは、部屋にずっといたり。もうひとつべつの家をもった感覚になるのがけっこう好き。
俺は東京に生まれ育ってるから、自分の生まれた場所を離れて、友だちをつくるところから始める、みたいなことにすごく憧れがある。なんというか、自分をやりなおすタイミングがなかったから」
——”デビュー”するタイミングね。
「そう、デビューがなかった。たとえばある土地にパっと行ったら、それまでの自分を誰も知らないわけだから、いきなりその日から、俺オカマなんです、と言っても人生を始められるわけで」
——なんでそのたとえなの?
「 (笑)。そういったおかしなことにもなれるわけじゃない? そういう感覚にもすごく憧れてるから、まあ実際はそこに住んでいるわけではないから、住んでいるような気持ちに自分をもっていくというか。この街、俺知ってるぜ一、みたいな顔をする(笑) 。そうやってなりきってるのが、けっこう好きなのかもしれない。あとは、自分の知らない自分を見てみたいと思ってるのかなという感じはある」
——ということは、自分をけっこう客観的に見ているのかな。
「ま、渦中にいるときはそんなに客観視してるわけではないんだけど、行くにあたっての気持ちとしては、そうですね。どういうことになるんだろうなぁと期待してるし、それを求めていると思います」
  
沖縄と仲よしに
——永積さんって、なんとなく南の方面が好きだっていうイメージがありますが?
「南、好きなんですよ。沖縄、ハワイ、モロッコ…あったかいほうがワクワクして楽しい。ヤッター!! つって(笑)。なんかね、静かになにかに収まってるっていうのがホン卜できなくて。スウェーデンの白夜とか、耐えられないかもな。頭おかしくなっちゃうかも。陽気なほうが好きっ(笑) 」
——旅は昔から好きでした?
「いや、俺ビビリだから、とくに海外はずっと行けなかった。英語しゃべれないし行けねえよって思ってたの。ちゃんと常備薬持っていかなきゃ、おなか痛くなったらどうしようとか、いまでも怖いんだけど(笑) 。でも旅が好きになったのは、沖縄を知ったっていうのがけっこう大きいかな。それはこの3〜4年のことなんだけど」
——そもそも、どうして沖縄に行くように?
「いちばん最初に行ったのは高校の修学旅行でだったんだけど、離島だけだったから、那覇のああいう感じとかは知らなくて。で、ハナレグミで、初めて沖縄にライヴしにいった。そのときに、曽我大穂(永積タカシの高校時代の友人であり、ハナレグミのサポートメンバー)に奇跡的に会ったの。ライヴ後、お客さんがいなくなったところに、いたのよ彼が。おー! どうしてここにいるの!? って、卒業以来の再会」
——彼はとっても沖縄顔だけど、地元の人なの?
「たしかに独特な彫りの深さだけど、違うの。奈良出身で、沖縄にもう何年も住んでる。で、俺のライヴの2日前に、何ヵ月か滞在してたスペインからちょうど帰国したところだった。それでたまたまコンビニで雑誌をパッと開いたら、俺が写ってた。あれ、これは永積じゃないかつてことで」
——すごい話だ。それがいまやサポートメンバーですからね。
「そう。それでその2日後に、フリースクールでライヴをやろうよって大穂が誘ってくれて、ジャムセッションしたの。そのときの彼のブルースハープとフルートが、身体で演奏してて、ホント感動して。それで一緒にやりたいと思って、以来ずっと手伝ってもらってるんです。
大穂が、沖縄の友だちをいっぱい紹介してくれて、いろんな場所に連れていってくれた。だからいま俺が沖縄に行ってわりと深いところを知ることができているのは、彼のおかげ」
 
栄養がいっぱいある場所
——沖縄のどんなところが好きなんですか?
「とくに感動したのは、音楽のありかた。カフェでライヴやりたいってなったらパッとやれたり」
——外国みたい。
「うん。泊まってるドミトリーの屋上で今夜ライヴやるから出てよ! と突然言われたり。沖縄ではモアシビ、っていって、ビーチで三線弾きながらみんなで歌うっていうのが昔からあるみたいなんだけど、そういう感覚でみんなで音楽を共有する。じゃあウチでやってってよっていうノリ、フットワークの軽さが、すごくいい。
いつも思うのが、ライヴが先に決まっている状態っていうのが、じつは苦手で。その瞬間になにがやりたいかって思って、それができる、それを聴いてもらえるっていうのが、いちばんその場所に合ってるし、自分もいちばんやりたいことが見えてるしっていう。本当はそういうことができる場所がいっぱいあるということが、ミュージシャンにとって幸せなんじゃないかと思う」
——もともと音楽というのが、たぶんそういうものだったんでしょうしね。
「そう。だからね、沖縄みたいにそれが成りたってる場所っていうのは、ミュージシャンにとってすごく刺激的だし、すごくストレートなことができてるんだと思う。だからそういうものに惹かれて沖縄に行くことが多くて。すごい栄養がいっぱいある場所というか。でね、そういう感覚で、そういうときにやれる音楽というのは、聴いてくれているほうの人からすっごいフィーリングをもらうのね。このままいくらでも音楽できるなって思っちゃうくらい。これはすばらしいなって思って。そこで受けた刺激をもちかえって曲を書いたりとか。
あと滞在してる部屋で練習してたりしても、みんな、俺がハナレグミだってことを知ってても、ほっといてくれる懐の大きさがある。だから、甘えに行ってるみたいなもんなのかな。ひとりにしてもらえてる感じ」
——じゃあ、ふだん生活してて、ちょっと窮屈になってきたり、なにか溜まってきたときに、旅に出たくなるんですか。
「うん、それはある。この場所をいま出ないといけないな、とか。1 回無重力にならないといけないな、と」
——それはよく言う“フルチン状態” になりにいくっていうこと?
「そうそうそうそう。裸にならないとだめだなって俺は思う。そうすると、とらわれてた問題がじつはすごく簡単なことだったんだってことがわかったり。自分のいちばんリラックスした状態に戻れるから」
——ちょっと逆説的なところがありますよね。自分のふだんいるところから外に出ることで、本来の自分に戻るという。
「そうだね。それでやっぱり、そのリラックス状態をまたもちかえるっていうところはあるかな。そうでない状態っていうのは自分自身にとってもあまりプラスのことではないし、なにかをつくるときにもいい状態ではない。いつもいい状態でものをつくりたいし、人と会っていたいから、そのためには1回、自分を洗い流しにいかないといかんなーと」
 
自分をスイッチするための装置
——自分にとって、旅にそういう効果があるということは、最初から気がついてました?
「何度も沖縄に行ったり、旅行によく行くようになってからかな」
——じゃあ最近ですね。社会に揉まれてからってことかな。
「ああ、たしかにそうかも。やっぱりそういうのって、自意識に目覚めた瞬間からだと思う。子どものころは、全部用意してもらって、なにも気にしないでそこの場所に行けたでしょ。タイムスリップみたいに、パッとその場所に行けた。でも、いまはいろいろ考える。いつ行こうとか、いくらくらいかかるとか。そういう1個1個があるから、また違うのかな。徐々にそこへ向かっていくという過程がある」
——けっこう精神的なことですよね。だから別の場所に行くことじたいはどちらかというと二次的なことで、精神を解放するために付随してくるものとして旅という行為があるというか。
「そうかも。自分のなかで、刺激を与えに行っているという」
——刺激を受けないようにというふうにもいえるかもしれないですね。
「それはすごいあると思うし、使う部分がすごい違うという気がする。東京で仕事してるときの身体と、旅行に行ったときの身体では、まったく違うガソリンを使ってるような。だからこっちのガソリンがなくなってきて、それを貯めるためにもう一方のガソリンを使って旅行して」
——東京モンには田舎がないですからね。帰る場所がないから、出かけることで帰るという逆説的なことになる。
「田舎があるってどういう気持ちなんだろう。田舎をもってみたいな。実家帰ったらぜったいあそこの讃岐うどん食べちゃうんだよね、みたいなこと言いたいなー(笑)。バンドメンバーとか見てでも、抱えてるものが違うなっていうのをすごい感じる。俺はなんかいいんじゃない?って思うようなことが、それじゃだめだったりするんだよね。それは自分の実家が電車で帰れる場所にあるかないかってことでもすごい変わるし。そういう意味で気づかされる瞬間がある。生まれた場所が近くにあるとないでは、意識が全然違うんだなっていう」
 
やれないことが、やれていること
——それにしても、急に思いたってフラっと旅行に出たいということは、それをやるためにはけっこう努力というか、強い思いがないとできないでしょう? たとえばスケジュールがぴっちり決まってたりしたらできないわけで。
「それは、かなり無理を言ってます(笑) 」
——スケジュールをあえて空けといたりっていうのは、よほど強い意志をもってないとできないことですよね。
「どうなんだろ。でもその代わり、帰ってきたときは予想以上のことを俺はやりますよっていうか」
——おお!(笑)
「なんかね、旅行でも音楽でも、できることをやることは簡単だと思ってて。ライヴやってても、知らない自分に会いたいなっていつも思うんですよ。歌えたということは、べつに自分にとっては到達点ではまったくない。そうではなくて、お、俺はこんなふうに歌えるんだ、こんな気分になれるんだ、と思えることが、すごい楽しい。
だから、ただ演奏するっていうのは簡単なこと。うまくなって、慣れてくることが怖い。旅行するっていうのも、リフレッシュするのもあるけど、なんか慣れそうになってきてるっていう危惧があるんだろうね。わかってくると、いや、わかっちゃだめだろうって思っちゃう。いつもみずみずしくいたいし、それは誰がやってくれるわけじゃなくて、自分でその状態にもっていかないといけないと思うと、その場所を離れたほうがいいと思うことは多いかもしれない。じつは俺、正直、音楽から学ぶことはもうないかなって思ってて」
——とりあえずギターが弾けて、とりあえず歌えればいい。
「そう。だから勉強するというよりは、体感することのほうが重要。そういうふうに技術を学ばないということが、学んでるということだと思ってる。歌なんかでいうと、これ以上歌いすぎるとなにかテクニックをもちそうだなと思ってすごく嫌なんです。歌えないように歌いたいんですよ、俺。これ、ちょっと難しいんだけど。大穂がうまいこと言ってたんだけど、外国から帰ってきた日本人ってすごく海外に影響されすぎて“マッチョ”になるって。影響を受けすぎるとテクニカルになっていっちゃう。1 個フェイクができることがすばらしいって。でも俺は、それは違うと思う。それは歌じゃない。それは、その人が本当に歌を歌ってないんじゃないかな。もっとしゃべるみたいにして、みんなのふつうの会話のなかがすでに歌だと俺は思ってるの。だから、やれないってことが、じつはやれていることなんだと思う。俺はこういうふうにしか歌えない、ついついこういうふうになっちゃうんだよっていうのが、その人の個性であり、強さなの。テクニックをもっちゃうと、そのでっぱりがなくなっちゃう。そうなってくると、俺がやれることってもうないんじゃないかな。もっと歌がうまい人はいっぱいいるし、だったら海外の誰かの歌を聴いていればいいし。だから、そのやれてない感じが自分の持ち味で。それに、すごく情報が多いから、自分で情報をどこかでカッ卜してあげないといけない。東京にいると、ついつい聴きすぎちゃうというか、知りすぎちゃう。そうするとそれが全部影響するなーと思って。
だから沖縄に行くと、テレビもまったく見ないし、音楽も聴かない。ふだん全然本読まないんだけど、旅先だと読めるんですよ。だから本を読みにいくようなところもある。なにかが足りないから、それを補おうとして、ふだんやれないことをやれたりするんだなーと思って。俺ふだん家にいたらダラーってずーっとテレビとか見ちゃうの(笑) 。いけねえなーって思うんだけどやっちゃって、知らなくていいこと知っちゃったりするんだけど、旅行に行くとそれができないぶん、自分のなかからべつな遊びを見つけられる」
——なにもやらないことで“開く”というか。
「うんうん、そう。それに、すごくひとりになれる感じがする。東京でもひとりになることは全然ふつうにあるのにね。違う段階で自分を見つけられるっていうか、見つめられるっていうか。あ、俺こういうこと考えてたんだなってことに手が届くのは、旅先なのかな」
——じゃあ、旅は絶対していかなくちゃいけないことですね。
「うん。最近すごく、そう思いますね」
  
ハナレグミ hanaregumi
SUPER BUTTER DOG のヴォーカリストである永積タカシのソ口ユニット。その独特な歌声と音楽でつくられる世界観は多くの人を魅了する。ミュージシャンとのコラボレーションや楽曲提供、またCM音楽やナレーションなども手がけている。
http://www.laughin.co.jp/hanare/
 
このインタビューは、ペーパースカイ No.20に掲載されたものです。