木版画で制作した異色の『ユングフラウ』 Félix Vallotton

画家フェリックス・ヴァロットンが制作した木版画に『ユングフラウ』がある。ユングフラウはベルン州南部にある、アイガー、メンヒとともにスイスが誇る三名山のうちのひとつ。ゆえに、この山々を描いた画家は今も昔も多いが、人生の大半 […]

09/19/2017

画家フェリックス・ヴァロットンが制作した木版画に『ユングフラウ』がある。ユングフラウはベルン州南部にある、アイガー、メンヒとともにスイスが誇る三名山のうちのひとつ。ゆえに、この山々を描いた画家は今も昔も多いが、人生の大半をフランスで過ごし、かつあまり風景画を描くことのなかったヴァロットンがユングフラウを題材にしたのは興味深いところだ。
19世紀後半に活躍したヴァロットンは、ローザンヌ生まれ。パリに渡ると前衛芸術家集団「ナビ派」として、斬新な画風を確立した。人間の本質をえぐるべく深層心理を追求し、その表と裏、光と影を描いた。一方、革新的な構成力が魅力の木版画シリーズも制作しており、なかでも風景画の『ユングフラウ』は異色の作品だ。主題や単純化する様式、「すやり霞」にも似た雲の描写は、日本美術の影響を思わせ、山を主題に画面に大きく捉えるのは、葛飾北斎の『冨嶽三十六景』からきている。画面のなかにタイトルの文字を書き込むのも浮世絵の影響ということで、作品は独創性に富んだ魅力を放っている。
この作品がつくられた19世紀後半は、スイスで本格的に登山鉄道がつくられたころ。鉄道の発達とともに「自然賛美」ブームが起こり、画家たちはこぞって登山鉄道に乗り、アルプスの絶景やパノラマを描こうとした。ヴァロットンは、パリに移住してからも休暇をスイスで過ごしていたというから、『ユングフラウ』はおそらくそのときに(奇跡的に!)つくられたものだろう。鉄道の発達によって、スイスは観光面だけでなく、文化・芸術レベルも押し上げることに成功した。そんな好例なのではないだろうか。
  
フェリックス・ヴァロットン/Félix Vallotton
1865年、ローザンヌ生まれ。おもにフランスでナビ派として活躍。現代木版画発展期の重要な人物。ジャポニズムの影響も垣間見える。1925年没。
 
◼︎取材協力
スイス政府観光局
スイスインターナショナルエアラインズ
スイストラベルシステム
 
» PAPERSKY no.54 SWISS | LANDSCAPE ART Issue