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大地の恵みを食卓へ|北欧ノルウェーのクリエイターライフ vol.2

ノルウェー発祥のアウトドアブランド、ヘリーハンセンと、自然とともに暮らすノルウェーのクリエイターを訪ねる旅。第2回は、オスロにある創作料理レストラン「Maaemo」の共同オーナーで、ヘッドシェフのエスベン・ホルンボー・バ […]

12/11/2013

ノルウェー発祥のアウトドアブランド、ヘリーハンセンと、自然とともに暮らすノルウェーのクリエイターを訪ねる旅。第2回は、オスロにある創作料理レストラン「Maaemo」の共同オーナーで、ヘッドシェフのエスベン・ホルンボー・バンさん。ノルウェー産の食材にこだわり、新しい北欧料理を提案する「Maaemo」を訪ね、ノルウェーの食文化や自然とともにある「フリルフスリフ」の暮らしについて話を聞いた。
「今日は朝から天気がよくて気持ちがいい。これから森に食材探しに出かけるけど、一緒にどう?」オスロの市街地にあるレストラン「Maaemo」を訪ねると、ベランダで料理用に栽培するハーブや野菜に水やりをする、エスベンに迎えられた。週に1~2回、エスベンは食材となるハーブや野草を探しに、近郊の森へ出かけるという。今日向かうのは、オスロの街を一望できるエケベリの丘。市街地から車で10分足らずの場所に広がる森だ。エプロンを外し、ヘリーハンセンの長靴に履き替えると、エスベンは森へ出かける準備を始めた。
「クローバーのような形をしたのが、スカンジナビアレモン。いまの時期なら柑橘系のさわやかな味がして、夏になると少し苦みが増してくる。これはスイートシスリー、こっちはワイルドチャービル。ハーブのほかにも、夏にはベリー類、秋にはマッシュルームが採れる。オスロの森は食材が豊富だけど、採りすぎないことも大事。自然の恵みに感謝して、必要な分だけいただくよう心がけているよ」
店名の「Maaemo」とは、フィンランド語で「mother of nature」という意味をもつ。その名のとおり、「Maaemo」は大地に敬意を払い、大地の恵みを提供するレストランだ。“ワイルド”、“オーガニック”、“インスピレーション”という3つのキーワードを店のコンセプトに掲げ、ノルウェー産の良質な食材に徹底的にこだわった創作料理で楽しませてくれる。2010年12月にオープンし、その15カ月後にはミシュラン2つ星を獲得したという、新鋭ながらノルウェーを代表するレストランとして注目を集めている。そんな「Maaemo」をオープンするにあたり、まずエスベンが取り組んだことは、地元ノルウェーの食材を知り尽くすことだった。良質な食材を求めて、ノルウェー各地の農家や漁師の元へ足を運んだという。
「信頼できる農家や漁師に出会い、新鮮で安全な食材を届けてもらわないことには、納得のいく料理を出すことはできない。そんな彼らの元を訪ね、僕がもっとも刺激を受けたのは、食に対する知恵だった。厳しい環境で生き抜くための知恵が、保存食のなかにつめこまれていたんだ。ハムやチーズ、ピクルスやジャムなどの瓶づめ食品、乾燥食材…。冬を乗り切るために、夏の間にいかに食材を貯蓄するかを考えていたことがよくわかる」
保存食はまさにノルウェーを象徴する文化のひとつ。「Maaemo」でも家庭に伝わる保存食のレシピにヒントを得て、冬には保存食を活かした料理も提供する。伝統的な食文化にも関心がある一方で、新しいノルウェー料理を模索するエスベンにとって、ノルウェーの森もまた、新たな食材に出会い、料理のインスピレーションを受ける場所でもある。
「森に入り、一般的には食材として使われていない植物が食材にならないものか試すこともある。北欧諸国でハーブの王様として慕われているスウェーデン人の研究者、Roland Rittmannのように、自ら試して新しい調理方法を提案していくことも「Maaemo」の役割だと思うんだ。森に頻繁に出かけることで自然の変化にも敏感になるし、その微妙な季節の移り変わりを料理で表現したいと思っている」
「Maaemo」では4つのシーズンをさらに細かく分けたマイクロシーズンを目安に、1~2週間ごとにメニューが変わる。さらにその日の天候や食材の状態、気分に合わせた味や盛りつけは、その日限りのものだ。エスベンが感じるままに創作する料理は、一夜限りのアート作品のようである。
「お客さんに新しい感覚で料理を味わってもらうためには、従来のコース料理にとらわれないプレゼンテーションが必要。だからMaaemoのコースは、10種類のプレートと10種類のドリンクを交互に提供するスタイルなんだ。どのプレートも魅力的で、お客さんの感性に響くような料理を目指している。この空間をいかに演出するかも大事だし、料理を引き立てるプレートや器も、地元の陶芸家に依頼して制作してもらっているんだ」
仕込み前、エスベンは「Maaemo」の料理を陰で支える陶芸家の工房やコーヒー焙煎所に立ち寄る。気のおけない仲間と過ごす時間もエスベンの日常に欠かせないひとときだ。
「キッチンではつねに緊張状態が続くから、他の時間をいかにリラックスして過ごせるかも大事なこと。僕の場合、着替えることでスイッチが切り替わる。白衣に着替えると緊張感が出てくるし、逆にオフのときは着心地のいいものを着て、意識的に気持ちを切り替えているんだ」
そう言ってエスベンはヘリーハンセンのファイバーパイルを脱ぐと、まっさらなエプロンを締め、2階のキッチンへと駆け上がっていった。
  
エスベン・ホルンボー・バング Esben Holmboe Bang
デンマーク・コペンハーゲン生まれ。レストラン「Maaemo」の共同オーナーでヘッドシェフ。2010年に「Maaemo」をオープン。2012年、ミシュラン2つ星を獲得。2013年には次世代を代表する15人のシェフとして、The Nordic Prizeを受賞。ノルウェーで最も注目される料理人として活躍している。
 
※ エスベン・ホルンボー・バンさんのアート作品のように美しい料理を写真で味わう展覧会を、THE NORTH FACE HELLY HANSEN鎌倉店にて12月25日まで開催しています。詳細はこちら。
http://archive.papersky.jp/2013/12/06/norwegian-culture-journey-exhibition-02-helly-hansen/