東京の樹木をつないで歩く“ツリートレック”

森、というと、はるかかなたの場所に感じるかもしれない。都会から離れた山のなか、手つかずの自然が残っているような……なんて思ったら大まちがい。「都内23区にも魅力的な木が、森がたくさんありますよ」と言うのは、「森の案内人」 […]

05/11/2020

森、というと、はるかかなたの場所に感じるかもしれない。都会から離れた山のなか、手つかずの自然が残っているような……なんて思ったら大まちがい。「都内23区にも魅力的な木が、森がたくさんありますよ」と言うのは、「森の案内人」こと三浦豊さんだ。森や樹木、それが織りなす自然の営みに魅了され、全国3000ヶ所以上の森や自然の名所を歩き続けている。
「森の案内人」となる前は「サクラとヒマワリしか知らなかった」という三浦さんが樹木にハマったのは、アスファルトのひび割れから芽吹く緑がきっかけだった。たかが雑草と侮るなかれ、それは豊かな森に回帰しようとしている自然の営みのひとつなのだ、と三浦さん。そうやって想像力を巡らせてみれば、アスファルトの下で雑草が根を張って群落し、茂みとなり、やがて森へと育っていくさまが見えてくる。三浦さんは、恐竜の時代から変わらぬその雄大な営みに、2億年という時間軸を悠然と生きる植物の生命力に、ワクワクさせられっぱなしなのだとか。
「日本は国土の2/3を森林が占める、世界でも有数の森林大国。アスファルトに覆われた東京もかつては肥沃な森でした。足元を注意してみれば、コンクリートの側溝から、道路沿いに植えられた生垣の脇から、電線の下から、さまざまな植物たちが芽生えているのを見ることができます」
そんな三浦さんに、東京の森の歩き方を教わった。今号の特集のように木を主役にしたハイキングで手始めに目を向けるべきは、樹木の生い立ちだという。つまり、街路樹のように人が植えたものか、自生したものなのかを見分けるのだ。
「植樹された木からは人の想いが伝わります。東京は人の営みも濃密だから、木が植えられた当時の文化や時代背景、街の有り様などをリアルに想像できるはず。一方、自生した木からは自然の本来の営みを読み解けます。さらには、タブノキやシイノキ、エノキのような古木からはそこが昔はどんな森であったのかという過去を、若い木からはそれがどういう森に育とうとしているのかという未来を推定することができます。そうしたヒントを得られたら、今度は枝振りや幹など、樹木の状態をよく観察してみましょう。その木がどんな時間をどう生きてきたか、どういう特性を備えた木なのか、本を読むように見えてきますよ」
視点を変え、樹木になって眺めてみる世界
さて、ここまでは“人”目線の話。三浦さんの提案は、視点を少しずらしてツリートレックをさらに一歩、深めてみること。樹木の目線で世界を眺めてみようというのだ。
「動物からすると、“植物は動けない不自由な生物”ですが、植物から見る動物は、“動きまわらないと生きるためのエネルギーを摂取できない非効率的な生物”ということになる。たとえば、公園などでも見かけるグネグネとした枝振りの大木。あの枝振りは効率よく光合成をするために空間いっぱいに枝を延ばしつつ、樹木全体の重量バランスを取れるベストな樹形を選択した結果なんです。光が差し込まない箇所では自ら葉を枯らし、無駄なエネルギーをカットする。そういうしたたかさ、戦略性を備えているのが植物です。生き物としてスマートだと思いませんか?」
こんな視点で全国各地の森をくまなく歩いてきた三浦さんから見ても、都内の森には独特の魅力があるのだとか。
「木を切りすぎるとどこかでバランスを取りたくなるのか、人は大木を求めます。だから東京の街には圧倒的な大木が残っている。そんな木に出合えたら、この土地が本来、宿していた自然を感じることができます。東京ってそんな贅沢な場所なんですよ」
三浦さんに倣い、木や森について少しだけ知識を深めれば、いつもは素通りしてしまう街並みに豊かな森の情景を見てとれるようになる。今回はイラストレーターのジェリー鵜飼さんが実際に東京の森をハイクしながら、木々を主人公にした街の風景を描いてくれた。日常(都市生活)と非日常(樹木)が不思議に交錯する、大都会・東京の懐の深さを感じられるはずだ。
あらためて樹木の営みに目を向けてみよう、樹木が綴る壮大なストーリーに飛び込んでみよう。ページをめくり、TOKYO TREE TREKの冒険に出かけよう。
 
三浦豊 Yutaka Miura
大学で建築を学んだ後、庭師に。さらに日本の自然に親しみたいと全国を歩き始める。2010年より「森の案内人」として活動中。著書に『木のみかた 街を歩こう、森へ行こう』(ミシマ社) niwatomori.com
ジェリー鵜飼 Jerry Ukai
多方面で活躍するイラストレーター、アートディレクター。日常的に山登りを楽しむハイカーでアウトドアにも精通している。アートユニット「ULTRA HEAVY」としての活動の他、近年は執筆活動にも精力的に取り組む。
 
PAPERSKY #62 TOKYO|Tokyo Tree Trek