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イスラエルの「デザイン・ハブ」がつなぐ新しいムーヴメント

2010年、イスラエルで初めての「デザインに特化したミュージアム」として、Design Museum Holonが完成した。その最初の展覧会として、3月4日から”The State of Things ― D […]

08/20/2010

2010年、イスラエルで初めての「デザインに特化したミュージアム」として、Design Museum Holonが完成した。その最初の展覧会として、3月4日から”The State of Things ― Design and the 21st century”が行われることになり、公開前日にはデザインカンファレンスと展覧会の事前公開(プレビュー)が行われることになった。この時期にイスラエルを訪れていた私は、知人から偶然チケットを譲ってもらえることになり、このプレ・オープニングイベントに参加することになった。地中海に面したテルアビブから15分ほど車を走らせて隣町のホロンに入ると、住宅地の中に赤茶色の巨大なオブジェが現れる。これが、かのロン・アラッドの建築によるDesign Museum Holonだ。
この日のデザインカンファレンスはミュージアムのすぐ隣にあるメディアテーク(演劇・映画などを基本とした複合文化施設)で行われた。観衆は美大の教授・学生たちや、イスラエルの美術・デザイン業界で活躍する人達が中心だったようで、主賓やミュージアムのスタッフに混ざって、建築を担当したロン・アラッドらしき人物も最前列に座っていた。
カンファレンスでは主に海外のプレゼンター達がプレゼンテーションを行った。第一部ではフランスからPaola BjaringerがLove Designプロジェクトの様々な「大人のおもちゃ」についてユニークな画像を交えて紹介した。また、ポーランドからはLodz Design Festivalの運営状況について、ディレクターのAgnieszka Jacobsonがビジネスの観点から説明した。
第二部のプレゼンターには、スペインのアーティスト/デザイナー、ハイメ・アジョンも名を連ねていた。ESIGN TIDEエクステンション会場となった際の伊勢丹新宿店や、AMPER表参道店のデザインなどで日本でも馴染みが深い。その彼のプレゼンテーションの時にちょっとしたハプニングが起こった。
まず壇上に現れたハイメは「僕の名前を正しく発音してくれる国に来ることができて、とても嬉しい」と挨拶をしてプレゼンの準備を始めた。(Jaime Hayonの”Ja”のことらしい)ところが一向にプレゼンテーションが始まらない。どうやら自分のラップトップが直前になって壊れてしまい、事前に準備したプレゼンテーションのデータが吹っ飛んでしまったようだ。スタッフが何とかしようとするもうまくいかない。この状況に覚悟を決めたのか、ハイメはミュージアムのスタッフに送ってあった作品の画像数十枚を使って、その場でスタッフのノートパソコンを開き、思いつくままにプレゼンを始めた。こういった即興の「ライブ」は特に好まれるようで、プレゼンを終えた壇上のハイメをミュージアムのスタッフがハグ&握手し、会場はスタンディング・オベーションに包まれた。
カンファレンスが終了した後、私は隣のミュージアムに移動して展覧会を見て回った。外観の独特で巨大な造形に比べると、館内はかなりオーソドックスな展示空間になっている。体感的には建物部分を隠した東京の21_21 DESIGN SIGHTよりもコンパクトに感じるが、実際には相当の広さがあるのだろう。
その時行われていた「The State of Things」展には、21世紀のプロダクトデザインの代表的な作品が国内外から幅広く集められていた。日本からは吉岡徳仁、nendo、岡本光市の作品が展示され、彼らの作品をはるばるイスラエルの地で目にするのはとても新鮮な体験だった。
現在、このDesign Museum Holonでは日本から巡回したSenseware展が開催されている。(~9月4日まで)原研哉がディレクターを務めるこの展覧会は、ミラノトリエンナーレ、東京の21_21 DESIGN SIGHTに続いて、イスラエルで行われることになった。「何故イスラエルで!?」という疑問を持つ人も多いかもしれないが、私の個人的な経験からも、デザインにおいて日本とイスラエルの間に以前から繋がりがあったことは確かだと言える。
今回、私にデザインカンファレンスのチケットを譲ってくれた知人のイスラエル人学者は、日本のグラフィックデザインについて研究している。彼は以前日本に留学していたことがあり、その時から日本の代表的なアートディレクター、グラフィックデザイナーの多くを取材してまわってきた。日本のグラフィックデザインの創成期から現在まで、幅広い見識を持っている彼との話はいつも刺激的だ。
また、私がイスラエルで実際に会ったデザイナー達の中にも、日本で学んだり仕事をしたりした人は少なくない。彼らのスタジオに行くと、その頃日本で制作したポスターやパッケージデザイン、日本の建築・デザインの書籍などが並べられている。逆に、日本の代表的なグラフィックデザイナー達も過去にイスラエルを訪れていたらしく、私を見て当時の出来事を懐かしそうに話すイスラエル人のデザイナーにも出会ったことがあった。(彼は日本でも個展を開いている)
私がイスラエルのデザインについて何か知るよりもずっと速いペースで、ここでは新しい動きが生まれているようだ。今回のSenseware展のように、デザインにおけるイスラエルと日本との接点もこれからさらに発展していくのだろう。
【参考サイト】
Design Museum Holon: http://www.dmh.org.il
Ron Arad: http://www.ronarad.co.uk
Jaime Hayon: http://www.hayonstudio.com
Tokyo Fiber ― Senseware: http://www.tokyofiber.com