小さな島の凝縮された奥深さ。船越雅代さんと台湾の邂逅

料理はその国の地域性、文化や歴史を反映する。当然のことだ。台湾は、九州ほどのサイズの島の中央に、富士山よりも高い玉山を含む山脈が縦走している。その地形と高温多湿の気候から、海の幸、山の幸、農産物と、食材がとにかく豊富。加 […]

12/08/2015

料理はその国の地域性、文化や歴史を反映する。当然のことだ。台湾は、九州ほどのサイズの島の中央に、富士山よりも高い玉山を含む山脈が縦走している。その地形と高温多湿の気候から、海の幸、山の幸、農産物と、食材がとにかく豊富。加えてオランダやスペイン、中国や日本の統治時代を経て、各国の料理がミックスして独自に展開していった。
台湾は今回で3回目という船越雅代さんは、こう評す。「東南アジアらしさのなかに日本や中国の影響もあって、こんなに小さな島なのにいろんな味が濃密に混ざっているのがすごくおもしろいし、好きですね。奥深さをとても感じる中華料理が私はいちばん好きなんだけど、文化大革命のときに優秀なシェフが台湾にたくさん来たから、台湾の中華料理のレベルはとても高いらしい。本国では消えてしまった古きよき中国や古きよき日本が、ここにはあるんじゃないかな」。
台湾に到着して3日目の朝、雅代さんと台北の濱江市場へ向かった。アジアの市場特有の活気のなか、野菜や果物、肉に魚を次々と見てまわる。初めて見る食材には積極的に手を伸ばし、においを嗅ぎ、店の人に質問し、今日、これからつくる料理のイマジネーションをふくらませていく。脳みそをフル回転させているのが、側で見ていても伝わってくる。「沖縄や鹿児島っぽさもありますね。食材を見るかぎりはインドネシアの北部に似ています」。地球規模で食材比較ができるなんて、世界中で料理をしてきた雅代さんならではだ。
持ちきれないほどにたっぷり買ってきたさまざまな食材をテーブルに広げ、メモを取り、ブツブツとつぶやきつつ、食材を触って、ときにはちょっと味見しながら、メニューを構築していく。時間にして15分というところだったろうか、「よし、できた!」と雅代さん。お願いしたのは、いきなりにしては無謀とも思える7品だったが、驚くべきことにノートには8品目が箇条書きになっていた。
そして調理開始。いつも携帯しているバッグから取り出した包丁やトングなど、マイ7つ道具を持ち替えながら、全品同時進行だ。頭のなかではつねに次の手順を考えながら、いっときも手を休めず作業を続ける。湯気が上がり、においが立ちこめ、トントン、ジュージューと音が立つ。雅代さんの手にかかり、素材が色鮮やかに変身していく。そうしてできたものは、食堂で食べた料理のアイデアや、会った人との会話の内容、そして市場の活況まで、今朝までのエッセンスが詰まった、今日の雅代さんにしかつくれない料理だ。
「いろんな人と会うとか、ちょっと住むとか、もっと長く滞在するほどに“私のなかで吸収した台湾”が料理となって出てくると思う。そっちのほうがよかったとかではなく、現時点ではこれ、ということ。今日はこんなん出ました、ってね」(笑)。旅先で料理するということには、いつだって予測不能な事態がつきまとう。準備万端できるとも限らなければ、他人のキッチンを借りる不便さもあるだろう。「でも、私はそれを楽しんじゃう。音楽にたとえると、フリージャズ。食材や人や場所と、セッションするのが好きなんです」。
台湾で人気の料理家、王培仁先生に会えたことも今回の大きな収穫だった。もともと美術を専攻していた境遇も、旬の地物を使って素材を活かす料理がコンセプトなのも共通しているふたり。まず主役となる素材を選び、それに他をどう組み合わせるかを考えていく、レシピの構築の仕方も似ている。「ないものを手に入れるのではなく、そこにある食材をどう活かすかが大事」との王先生の言葉に、雅代さんが大きく頷く。できあがった自分の料理だけに語ってほしいから、よけいなものはつけ加えない。だからこそ、素材の色や形そのものが際立ってくる。ツールが食材に変わっても、ふたりがやっていることは今でもやはり、アートなのかもしれない。
» PAPERSKY #49 Taiwan | COOK Issue