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おいしいがつなぐもの

去年の夏休みは、クロアチアの南端のイストラ半島と、フィンランドの西の町キュロを訪れた。ヨーロッパの南と北。日差しが弱くなる夕方を待ってビーチに繰り出すクロアチアと、サウナで温めた体を目の前の海に飛び込んで冷やすフィンラン […]

01/06/2020

去年の夏休みは、クロアチアの南端のイストラ半島と、フィンランドの西の町キュロを訪れた。ヨーロッパの南と北。日差しが弱くなる夕方を待ってビーチに繰り出すクロアチアと、サウナで温めた体を目の前の海に飛び込んで冷やすフィンランド。同じヨーロッパなのにこうも違うものかと驚いた。一方で、メニューには共通点もある。子どもたちが必ず頼みたがるシュニッツェルはどこの町にも必ずあって、どこでも地元の郷土料理なんていっているのだからおもしろい。日本で出てきたらこれ、ほとんどトンカツだ。
『世界は食でつながっている』は、深いところで関連し合う世界の食にまつわるリサーチ集。食材とアイデア、そして人間が自由に世界を行き来することで、初めて料理が存在するというのがこの本の考え方で、一例を揚げると、ではなくて挙げると「人間は平たいパンで肉を巻く」というテーマ。
最古の平たいパンの記録は、紀元前1世紀のエルサレム。マッツォという酵母を入れない薄いパンで、ラム肉と苦菜を包んで食べた記録が残っている。以来、人間はそこにある穀物で粉を挽き、そこで捕れる(採れる)ものを巻いて食べてきた。スカンジナビアのクリスプブレッド、メキシコのトルティーヤ、中国の煎餅(ジェンビン)、エチオピアのタフ。まだまだあるが、おもしろいのはこれらの食べ物は、伝播していくだけでなく、同時多発的に生まれたようだということ。人間が食を通じて知識を交換し、ひらめきがかたちになっていく様を見るようだ。
他にも、フォークや箸といった食事で使う道具に対応してメニューやマナーが発展していったことを検証する「いろんなことは、フォークの持ち方で決まる」や、「良い素材はじっとしていない」、「行く先々でカレーは育つ」、「コーヒーは命を救う」など、もうそのタイトルだけで読みたくなってしまうテーマが満載だ。
この本を編集したMADとは、デンマーク語で食べ物の意味。2011年にNomaのシェフ、レネ・レゼピが立ち上げたシンポジウムから発展したNPO団体は、現在300人ものシェフや経営者、フードライターやウェイターが参加しているという。国や人種ではなく、食を通じて人や文化をつなげていく。現代的で意義のある活動だと感心した。
 
世界は食でつながっている You and I Eat the Same
MAD(著)、中村佐千江(訳) 角川書店