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ニッポンの魅力再発見の旅 十勝

日高山脈と太平洋に挟まれた、北海道のまんなかの蒼茫たる大地、十勝地方。大豆、小豆、じゃがいもなどの大規模農業が盛んな道内随一の農業地帯の生産者たちは、今、何を想うのか。心とお腹をたっぷり満たす、大自然とつくり手の情熱に触 […]

08/08/2018

日高山脈と太平洋に挟まれた、北海道のまんなかの蒼茫たる大地、十勝地方。大豆、小豆、じゃがいもなどの大規模農業が盛んな道内随一の農業地帯の生産者たちは、今、何を想うのか。心とお腹をたっぷり満たす、大自然とつくり手の情熱に触れる旅へ。
飛行機の窓から眺める十勝の大地は、雄大そのものだった。見渡す限りの地平はほぼ畑で、定規で引いたように長くまっすぐなラインをそれぞれの畝が描き、それが地上絵みたいでとても美しかった。空港に降り立ち、帯広市内行きのバスに乗る。至るところにある白樺やカラマツの小さな森が北国っぽくてイイ(これは後から防風林だと知った)。空はあまりに広すぎて、曇天のせいもあるけれど、ちょっと不気味なくらいだった。大小さまざまなサイズのバウムクーヘン型の小屋がちらほら目につく。雪除けのデザイン。だいたいは赤か青、たまに緑なんかもある。冬にはそれらがすべて白に染まるのか。地元の人は大変なのだろうが、その景色、見てみたいと思った。
「HOTEL NUPKA」を今回の旅の拠点に選んだ。地元の魅力を発信する映画「my little guidebook」の制作をきっかけに、2016年に老舗ホテルをリノベーションして生まれたらしい。フロントにはイベントスペースと、地産食材を堪能できるカフェバーを併設。地元民もよく利用するようで、この日も旅人との談笑が生まれていた。棚に並ぶパンフレットを手に取り、情報を仕入れる。「十勝とは、帯広市を中心に1市16町2村から成る地域で、人口は約36万人」。「面積ベースの耕作地全国シェアは5.5%」。「農家1戸あたり東京ドーム約7.5個分の農地がある計算」。「食料自給率は驚異の1,266%」等々。スタッフも地元の情報に詳しくいろいろ尋ねてみたが、北海道、と聞いて漠然と連想する広大さは、この十勝にあると見てまちがいない。いい旅になりそうだ。
この土地の魅力を知るには、生産者に会いに行けばいいのではないか。そう考えた僕らは、いくつかの農園を尋ねた。まず、有機農業で知られる「折笠農場」。主の折笠健さんは、オーガニックを志す後発の農家のために、有機でも育ちやすい品種を大学などと連携して開発している。「オーガニックの看板を掲げることが重要ではないんです。大切なのは安定した単価、供給、おいしさを提供すること。それができれば、農薬を撒きたい農家なんていない。何のための農薬か、あるいは有機か。それを皆で考える必要があると思います」。十勝の農業の未来と真剣に向き合う彼は、たくさんの例を挙げながら農業の“今”をていねいに話してくれた。
ランチを兼ねて訪れた「源ファーム」は、広い敷地内の端にレストランを構える養豚場。近隣の牧場からチーズをつくる際に分離する上澄液「ホエー」を、国内では希少なケンボロー豚に与え飼育している。ミネラルや乳酸菌を含むが従来は廃棄されていたホエーを資源として活かし、豚舎から出た肥料を牛の食べる牧草に還元する循環型農業。十勝のソウルフードである豚丼、そしてステーキ、自社製のソーセージやベーコンをじっくり味わいながら、土地に根ざす農業のあり方を学ぶ貴重なひとときを過ごせた。
「自分たちがちゃんと愛せるかどうか。それが育てる野菜を選ぶ基準です」。笑顔でそう語ってくれたのは「夢想農園」を営む堀田さん夫妻。北海道に流通するおよそ3割を出荷する白カブ農園を両親から受け継ぎ「それを大切にしつつもっとお客さんの顔が見える農業をしたい」と、パクチーやアーティチョーク、わかもろこしなどめずらしい野菜を30品種ほど育てていて、マルシェなどの直販にも積極的に参加している。収穫期より少し前で渋さはあったものの、畑から引き抜いて食べさせてくれた白カブはジューシーでほのかに甘く、元気の出る香りがした。
北海道といえばジンギスカン。その歴史は、貧しい時代に海外から仕入れた安価な羊肉を、どうにかおいしく食べようと考案されたのが始まりだとか。その由来は、牧羊に可能性を見出したと語る「石田めん羊農場」の石田直久さんから伺った。「だからじつは国産の羊肉はかなり希少。うちではレストランと直接取引し現場の声を聞きながら、飼育方法を改良して品質を高めています」。そんな石田さんのこだわりと通じるものを感じたのは、ほとんど誰もやらなくなった時間のかかる伝統製法を続けている「さらべつチーズ工房」とオーガニックパン工房「風土火水」だ。そのチーズは信じられないほど濃厚で、パンは日が経つほどに熟成していく。どちらも他にない深い味だった。
今回の旅で出逢った人たちは皆、消費者—つまり私たち—との「つながり」を真摯に、誠実に捉えて働く大切さを教えてくれた。その姿勢は、音更町の自宅で日々羊毛を紡ぎ編み、作品を制作しているニット作家、清瀬恵子さんの何気なく放ったひと言に集約される気がする。「使う人の顔を思った“嘘のない仕事”がしたいんです。たとえどれだけ手間暇がかかっても」。それは十勝の大自然がそうさせるのか、彼らがもともとそういう人だったのか。おそらく、その両方なのだろう。
 
PAPERSKY Tour de Nippon in 十勝(2018.9.22-23開催)
www.papersky.jp/tour/tokachi
 
>> PAPERSKY #57 MEXICO, OAXACA|Food & Craft Issue