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ニッポンの魅力再発見の旅 広島県尾道市

町に根づく文化、自然や人の魅力を“再発見”するツール・ド・ニッポンの旅。古きをたずねて新しきを知る〜温故知新という言葉が似合う広島の尾道を訪ねます。瀬戸内に浮かぶ島々を臨む、坂のある町並み。はじめてでも懐かしさを感じるそ […]

07/10/2014

町に根づく文化、自然や人の魅力を“再発見”するツール・ド・ニッポンの旅。古きをたずねて新しきを知る〜温故知新という言葉が似合う広島の尾道を訪ねます。瀬戸内に浮かぶ島々を臨む、坂のある町並み。はじめてでも懐かしさを感じるその町へ。
「海が見えた。海が見える」。海を臨むたび、そのことが嬉しくて、ふと思わず口にしてしまいそうになるのは、林芙美子『放浪記』の一説だ。作家・志賀直哉は、東京から尾道へ移り住み、坂の上の住まいで『暗夜行路』を書いた。小津安二郎監督の映画『東京物語』の舞台にもなり、歌人・正岡子規も「のどかさや 小山つづきに 塔二つ」と詠んだ。
尾道駅を降りると、目の前には瀬戸内のおだやかな海が広がっている。背後を見れば、山腹を覆うように家々が軒を連ねている。海と山に囲まれた猫の額ほどの小さいエリアに、尾道の魅力はぎゅっと凝縮している。
尾道本通り商店街は、東西に1.6kmのびる、歩きがいがあって収穫も多い場所。露店で鮮魚を商う尾道名物“晩よりさん”も、昔より数は減ったけれど、足を運ぶ人は多い。新鮮で美味しい鮮魚はもとより、彼女たちから口伝される調理法は、尾道娘にとってなによりも大事にしたい参考書なのかもしれない。土地の人とそとの人、年長者と若い人。この町の、人と人が行き交い、交わるようすがあたたかくてホッとする。
尾道は、古いけれど新しい。古い建物に新たな活用を見いだし、大事に守ろうとする心意気をそこかしこで感じる。商店街のなかの、細長い京町家のような古い建物を再生したゲストハウス「あなごのねどこ」はその一例だ。「ここは、車のない時代にできた町。坂道に迷路のように張りめぐらされた路地は、家も人も距離が近い。人の顔が見える町なので、人との関わりやふれあい、コミュニティが楽しいんです」、そう話すのは、尾道空き家再生プロジェクトの代表理事を務める豊田雅子さん。2007年に立ちあげた同プロジェクトでは、小学生から70代の幅広い層の会員が登録制で参加し、“空き家の再生”を通じていろんな知恵やノウハウを共有している。空き家再生、空き家バンクとしての住み手と家のマッチングなどを経て、2012年に誕生したゲストハウスで新たな雇用を生んだのだ。
一方、千光寺へ続く長い階段の途中。昭和初期に建てられた風格のある洋館・島居邸とその奥にある出雲屋敷に、灯りがともされるようになった。これらは「せとうち 湊のやど」として訪れる人を迎える滞在施設で、2013年春に始動。仕掛人は、瀬戸内の魅力にあらためて向きあおうと2012年に立ちあがったディスカバーリンクせとうちだ。“郷土愛”というキーワードをもとに、尾道の未来を考える仲間たちが取り組むプロジェクトは、じつに多様だ。かつて海運倉庫として使われていた県営上屋2号を、ホテルを含む複合施設として3月に開業した「ONOMICHI U2」。国内外のサイクリストにとって憧れのサイクリングロード・しまなみ海道の起点らしく、自転車にやさしいさまざまな仕様が話題だ。「尾道デニムプロジェクト」では、尾道の人に実際に着用・使用してもらい“暮らし・日々”を刻んだユーズドのデニムとして販売。また、自由に生きる人にとっての学びの場として「尾道自由大学」を開校するなど、尾道の魅力を多様な手法で伝える提案が今後も期待される。
細く長くつづら折りに続く坂道を歩くと、童心にかえったように心が踊る。千光寺公園などは山頂まで行かずとも、海を見渡すことができる。この風景のおかげで、またきっと訪れようと心に刻む。
お向かいにある向島へは、日本一短い船旅ができるというのだから、渡らないわけにはいかない。人も自転車も、郵便屋さんのバイクも車も、陸地からそのまま乗り入れできる渡船は、約5分おきに行き来する。乗車時間は信号待ちのようなもので、気づけば対岸に到着している。
昭和5年創業の「後藤鉱泉所」には、向島へ来たらかならず会っておきたいおしどり夫婦がいる。再利用の瓶と昔ながらの製法で、ラムネやジュースをつくりつづけているふたりだ。「手間もかかるし運ぶのも重い、この仕事はえらい(しんどい)んよ」と話すのは、三代目の後藤忠昭さん。それでも、ご夫婦ふたりでできるかぎりの二人三脚は続く。
御調には、山陰・島根の石見銀山へと旧道が続く。街道沿いの、かつて医院であった建物を活かし、梶高慎輔さん・果代さんご夫婦が“みつぎさいこう(再考・再興・最高)!”を合言葉につくった「まるみデパート」。旧道を行き来した人が拠り所とした宿場の茶屋のように、子どもから大人まで喫茶や買い物、寄り合いに活用しにぎわっている。
時間と情熱をかける人たちがいるから、この町には新たな風をもたらす人や仕事、にぎわいが増している。それでもなお、懐かしさとホッとできる空気がある。お互いさまの精神、助けあう環境づくりのある尾道は、坂の町、湊の町でもなく、やっぱり心ゆさぶる“人”の町なのだ。
Tour de Nippon in Onomichi
http://archive.papersky.jp/tour/onomichi/
PAPERSKY Tour de Nippon in 尾道 Movie
https://youtu.be/dsUpKPsys44
» PAPERSKY #44 Sardegna | FOOD Issue