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ニッポンの魅力再発見の旅 群馬

秋から春に吹く上州からっ風。冬の長い日照時間と乾燥した季節風により、群馬では良質な小麦がとれる。南に関東平野、北西に長い裾野を広げる赤城山などの美しい山々。変化に富んだ自然は地域の誇りだ。都心から近くて未知な町を、訪ねて […]

05/10/2017

秋から春に吹く上州からっ風。冬の長い日照時間と乾燥した季節風により、群馬では良質な小麦がとれる。南に関東平野、北西に長い裾野を広げる赤城山などの美しい山々。変化に富んだ自然は地域の誇りだ。都心から近くて未知な町を、訪ねてみた。
中山道をはじめ、江戸と越後、信州や京の都、北陸、東北など、古くから各地をむすぶ街道も多い群馬は交通の要所でもあった。明治期には日本で最初の製糸工場で、後に世界遺産に認定された富岡製糸場が建設され、幕末の開港以降、海外への輸出品の7割を占める生糸の産地がこの群馬だった。ここに暮らす人たちの生活の中心にはいつも、蚕や糸、布などの手工芸があったのだ。
20世紀を代表するドイツの建築家ブルーノ・タウトが、ナチス政権から日本へ亡命し、日本で最も長く滞在したのが群馬県の高崎市であった。彼は高崎で草履表をつくる職人の技術に着目し、新たな手工芸品として「竹皮編」を生み出した。おむすびを包むのに使われる竹の皮を細かく5ミリほどに裂き、針にとおして、茅やい草などの芯材に巻きながら縫い込む。前島美江さんは、一度は途絶えた竹皮編を復活させ、つくり伝えるたったひとりの伝統工芸士だ。タウトと出会い、生き方のすべてが変わった。「日本人にとって当たり前の竹とその皮は、こんなにも美しい工芸品になる」。生活スタイルの変化に伴い需要が激減した竹皮は、福岡の八女市などでしか生えていない貴重なもの。竹林保全にも奔走し、高校などでも伝統工芸を教える美江さんは、これから竹皮編の後継者を育てることにも注力してゆく。
少林山達磨寺境内にある「洗心亭」が、タウトの高崎における安住の拠点だった。六畳と四畳半だけの簡素な建物ながら、夫婦が仲睦まじく簡素に暮らすには申し分のない閑静な佇まい。障子窓を開け放てば、美しい山の稜線と眼下には民家や田園風景が広がる。好んで散策した小径など境内に点在するタウトの軌跡は、達磨寺の住職家族によって大切に守られている。だるまや方位除けなどの祈願に訪れながら、高崎が誇るべき文化人の足跡をたどってみるのもよさそうだ。
群馬の空はこんなにも広いのかと、洗心亭から見渡せる山々の姿にもすっかり魅了されていた。高崎金属工芸の清水澄雄さんも山を愛してやまないひとり。「山が好きで始めたんだけど、まさかこの山バッジが一生の仕事になるなんて思わなかったよ」と、御歳75歳の元気な社長は、細かな色つけ作業の手を止めて話す。登山者が山へ登頂した思い出に、勲章として持ち帰ることができる山バッジ。欧州などで流行っていたものを1975年に高崎でつくり始め、今に至る。これまでにつくったバッジは2,000種にもおよぶ。「父は、どの角度から見た陰影が美しく、登山者に喜ばれるかよく知ってるんです」とは息子の篤司さん。色つけ作業を手伝う母の徳子さんと家族3人、精巧で小さなバッジひとつひとつにひたむきに向き合う姿が心に深く刻まれた。
高崎から前橋、桐生へ移動すると、山の裾野に広がる田畑が目につくようになる。このあたりは二毛作が主流で、全国有数の小麦の産地であるため、粉ものの食文化が根づいている。前橋でいただいたのは、郷土料理の焼きまんじゅう。想像しているよりずっとフワフワで、小麦を麹で発酵するのでパンとは異なる味わいがある。桐生の「しみずや」でいただいた幅3cmほどのひもかわうどんは、もとは秋から春のお彼岸までの間“煮込んで食べても次の日までおいしい”という冬の食べものだった。愛嬌にあふれたご主人・清水利信さんとご両親が心を込めて打つうどんやそばは、その味と人間味に一度訪れたら病みつきになる。
しみずやから歩いてすぐの刺繍の老舗「笠盛」は、世界の名だたるファッションブランドから信頼される技術をもとに、新しいものづくりに邁進している。笠盛は、帯の織物業として明治10年に創業ののち刺繍業に転身。その多様で繊細な技術を見れば、誰もが知るハイブランドから一目を置かれていることに納得する。「認めてくださるお客さまがいるからこそ、チャレンジできる」と話す片倉洋一さんたちが、技術開発に十数年も取り組み、2010年にようやく完成させたアクセサリーも注目を集めている。これが刺繍でできているのか、と驚くような美しいプロダクト。形成する1本1本の糸の開発から、刺繍機の新たなプログラミングなど、たゆまぬ努力が伝わってくる。
この春、桐生にオープンしたアウトドアショップ「Purveyors」。大空間へ一歩足を踏み入れると、2階天井まで吹き抜けの開放感。アウトドアとライフスタイルの融合をはかった雰囲気とこだわりの商品セレクトに圧倒される。ものづくりの町であり繊維の町でもある桐生にまた、新たな風を吹かせてくれそうだ。
タウトが愛した日本文化と群馬に伝わる手しごと、そしてユニークな食文化。だるまに山に温泉に、この旅で出会った人や技や心のおかげで、この豊かな町を何度でも訪れたくなった。
 
PAPERSKY Tour de Nippon in Gunma
PAPERSKY ツール・ド・ニッポン in 群馬(2017.5.27-28開催)
http://archive.papersky.jp/tour/gunma/
PAPERSKY Tour de Nippon in 群馬 Movie
https://www.youtube.com/watch?v=rAz4jJSZIIo
 
» PAPERSKY #53 SHODOSHIMA | HIKE Issue