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クライマーの理想を体現する街、ボウルダーへ

デンバーから車で40分ほど。人口10万人弱の静かな街、ボウルダーへ。この地で人々はどんなアウトドアライフを展開しているのか。アウトドアブランド「マーモット」と契約する地元在住クライマーたちと合流し、彼らのマインドセットに […]

10/28/2014

デンバーから車で40分ほど。人口10万人弱の静かな街、ボウルダーへ。この地で人々はどんなアウトドアライフを展開しているのか。アウトドアブランド「マーモット」と契約する地元在住クライマーたちと合流し、彼らのマインドセットに触れた。
1900年代初頭、他の都市が競うように開発を進めるなか、ボウルダー市は景観保護の方針を打ち出し、緑と共存する道を選択した。その大きなきっかけが標高2,127mの山、フラッグスタッフの開発問題だ。1910年、この山頂に巨大な遊園地建設計画が浮上。そのとき、この地の住民たちは猛反対の意思表示をし、結局、計画は頓挫した。それから数十年後、市は景観を守るため「ブルーライン」条例を制定。一定の標高を超える地に建設物を建てれば、市はその事業者に水道水を供給しないという厳しい内容だった。こうして、街を囲む広大な自然は維持されることに。そんなストーリーを持つフラッグスタッフでボルダリングを楽しんだ後、案内してくれた地元在住クライマー、ペイジ・クラーセンはこう話した。
「私にとってクライミングはソーシャルな体験。このスポーツを楽しむためには安全のためにも信頼できる友人が絶対必要で、情報や思いを共有できるコミュニティが欠かせない。ボウルダーの住人はアウトドアが大好きってだけじゃなく、楽しむためには環境に対してどうアプローチすべきかっていつも考えてる。5分も歩けば市によって守られた自然に触れられるし、高校ではクライミングの授業を選択することだってできる。自然のなかで楽しむ経験をとおして、街全体の環境への意識が高まっていくのを感じるわ」
ペイジの言うとおり、周囲の山々は古くから世界中のクライマーを魅了し、ジョン・ギル、ジム・ホロウェイ、ダン・マイケルズといった世界的ビッグネームが幾度も高難度のクライミングを成功させてきた。こうした歴史によってボウルダーは、「クライミング・キャピタル」と呼ばれるようになっていく。
そして彼女は昨年、「リード・ナウ」というプロジェクトを仲間とともに開始した。これは、コロラド発祥のアウトドアブランド「マーモット」からサポートを受け、世界9カ国で次々と高難度のクライミングを成功させるというイベントツアー。ここで得た1,000万円以上もの収益は、世界の恵まれない子どもたちを支援する非営利団体に寄付された。
「クライミングは人生と同じで、ときには成功することもあるし、失敗することもある。そういう本物のクライミング体験を世界に伝えることで、自然を知るとか、ギブアップしない強さとか、人生において大切なことをたくさんの人とシェアしたいと思った」
ペイジとともに山や街を案内してくれたピート・タケダも世界で名を知られるクライマーだ。10代のころからクライミング、ボルダリングを始め、エベレストやシャモニーのビッグウォールも登攀。かつてヨセミテではちょっとしたミスから100m以上もフォールし、なんとか命拾いしたと笑いながら話す。
「世界中旅したけど、クライミングしたり、山で取材して執筆したりするのにボウルダーほどいい場所はないからね。なんと言ってもここの歴史は興味深い。岩に取りついているとビッグクライマーたちの重ねた歴史が指から染み渡ってくるような気がするんだ。平日は仕事で忙しくて山へは行けないけど、おもしろいジムが多いから問題ない。朝6時ごろからジムでトレーニングして、その後オフィスへ向かうのは気分がいいよ」
向かった先は全米で最も古いインドアジム「ザ・スポット」。確かに平日の朝にも関わらずクライマーたちがひしめく。聞けば、17,000人ものクラブ会員がいるそうだ。
「ここに来れば世界中の情報が口コミでゲットできる。今、どの山で何が起きているかっていうのもオンタイムで知ることができるんだ。ここまでクライミングカルチャーが浸透した街ってなかなかない。空気がいいし、緑も多いから、農作物だって豊富。食のクオリティも高いから住環境としても最高だね。」
周囲のボルダリングスポットはいったいどれだけあるのかとピートに聞くと、街の書店に案内してくれた。驚くことにボウルダーの街だけに限定されたボルダリングガイドブックだけでも数十冊。どれも軽く500ページは超えそうなほど分厚い。「正確には分からない(笑)」とピートが言うほど、この地は山や岩に恵まれている。
「岩に取りつくときは毎回、失敗するんじゃないかって恐怖を感じる。でもチャレンジすれば新しい道が見えてくるとか、学びは永遠だっていうこととか、山から教わったことで人生の可能性が広がっていくんだ。この感覚を共有できる人間が多く暮らしているから、ボウルダーは先進的な街であり続けると思う。こんな場所に住めて、つくづくハッピーだね」
 
» PAPERSKY #45 Colorado | Bouldering & Hot Springs Issue (no.45)