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山頂へと誘う|スイス、民意を反映する土木(2)

山岳国であり観光大国でもあるスイスは、山の景色を楽しみたい観光客をどのように惹きつけるかという課題と古くから向き合い続けている。標高1898mのシュタンザーホルンでは、山頂に至るケーブルカー「CabriO(カブリオ)」で […]

01/17/2017

山岳国であり観光大国でもあるスイスは、山の景色を楽しみたい観光客をどのように惹きつけるかという課題と古くから向き合い続けている。標高1898mのシュタンザーホルンでは、山頂に至るケーブルカー「CabriO(カブリオ)」で観光客に特別な体験を与えてくれる。
シュタンザーホルンはスイス中部、ルツェルン湖の南に位置する。麓の町シュタンスでまずはケーブルカーに乗り込む。100年以上も前に山岳リゾートとして開発されたこの山では、山頂のホテルに向かう交通手段としてまずケーブルカーが開通したのだ。1893年に開通した当時、世界一の長さを誇るケーブルカーだったというから、観光開発と最先端土木技術との長く密な関係を感じさせる。
そして中間駅のケルティで一度降車し、ロープウェイ乗り場へ。100年超の伝統を誇るケーブルカーのクラシックな趣から一転する。キャビンが2階建で、その2階部分はオープンデッキという世界初の形態のロープウェイがそこに待機している。2012年夏に開通したこのロープウェイ「CabriO」の名は、オープンカーの「カブリオレ」に由来するのだという。
空間的にも割とゆったりしており、安定感のあるキャビンだからか。高いところが苦手な筆者でもそれほど怖くはない。いや、ゆったりしたスペースだけではない。技術的な処理によって安定感が生まれ、怖さが軽減されていることがわかった。キャビンを支える直径6mmのワイヤーは計4本。滑車を上下から挟む2本が1組となり、キャビンの左右を支えている。そして、地面との水平を維持するために油圧式の自動水平装置が装備されており、安定感が抜群なのだ。
山頂に着くと、年金生活を送る地元のボランティアがレンジャーとして山をガイドしてくれる。世界初のオープンデッキのロープウェイを最新技術で実現していることから、地元の人々にとって「CabriO」は誇りであり、レンジャーたちの姿はその事実を象徴している。まだ建設資金を回収している段階で、株主への配当が生まれてはいないが、開通以来、観光客も増加していることもあり、地域の住民は「CabriO」を応援している。
最新技術で完成した「CabriO」だけではない。やはりこちらも古きリゾートとして知られるビュルゲンシュトックにて、山からの眺望を楽しませる屋外エレベーター「ハメットシュヴァント・リフト(Hammetschwand Lift)」が設置されたのは1905年のこと。標高1128mの山頂を目指し、距離にして152.8mを上下移動するヨーロッパで最高地点に位置する屋外エレベーターだ。ガラス張りのエレベーターからはルツェルン湖の眺望が広がり、1分に満たず山頂に到着する。結構なスピードで進むエレベーターはなかなかにスリリングだ。
現在はビュルゲンシュトックのリゾートの大規模な改修と増築工事が進められており、2017年夏のオープンを予定している。大型ホテルの裏手には、かつてオードリー・ヘップバーンが結婚式を挙げた小さなチャペルが佇み、そこから遊歩道を20分も歩くと、崖に張り付いた屋外エレベーターが山頂へと誘う。「民意を反映」というテーマからは逸れるかもしれないが、自然環境と土木技術の融合によって、この場所ならではのリゾート体験が演出される。
次回は、建設中の橋を訪れる。
 
取材協力:在日スイス大使館
https://www.facebook.com/SwissEmbassyTokyo