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切れ者ぞろい|PAPERSKY japan club

鹿児島市に来た。歩いているとあちこちで歴史の痕跡に出会うのがこの街である。市内を流れる甲突川沿いを散歩していたら「維新ふるさと館」という建物が見えた。いつもならこの手の施設はスルーするのだが、たまには気分を変えてと思い立 […]

09/20/2017

鹿児島市に来た。歩いているとあちこちで歴史の痕跡に出会うのがこの街である。市内を流れる甲突川沿いを散歩していたら「維新ふるさと館」という建物が見えた。いつもならこの手の施設はスルーするのだが、たまには気分を変えてと思い立ち、寄ってみることにした。歴史に疎い私でも薩摩が近代日本の礎を築いた多くの人材を輩出した土地であることくらいはかろうじて知っている。ただ西郷隆盛に大久保利通といった日本人なら誰もが知る有名人にはじまり、日露戦争を勝利に導いたとされる東郷平八郎や大山巌といった軍人その他数々の名の知れた藩士がそろって鹿児島の加治屋町という町の出身だという解説にはさすがに驚いた。そのことを作家の司馬遼太郎は「明治維新から日露戦争までを一町内でやったようなものだ」と書いている。すごい町があるものである。
歴史的な気分に浸ったまま、今度は市街の中心にある老舗百貨店へと足を伸ばした。地方の百貨店に行って、食料品売り場や日用品売り場などをのぞくのが大好きなのである。全国津々浦々どこに行っても同じものが売られているようなご時世だが、こういうところに行くと時々地元ならではのモノに出会えるからだ。そしてキッチン用品売り場で出会ったのである。それがこの本種子包丁。種子島でつくられている鹿児島県指定の伝統工芸品だ。 
種子島と聞いて思い浮かぶのが「鉄砲伝来」。種子島は砂鉄の産出に恵まれていた土地だったこともあり、古来から製鉄技術が発達し、刀鍛冶をはじめとする多くの鍛冶職人がいた。だからたまたま漂着した島で鉄砲がつくれてしまったというのはよく考えるとすごい話である。その中世以降の技術が包丁や鋏といった家庭用の刃物として今日まで脈々と受け継がれてきた。 特徴はなんといってもその切れ味である。鍛え上げられた鋼の刃は本当に怖いくらいよく切れる。食材がサクサク、ザクザクよく切れるというのは料理をしていてじつに気持ちの良いものである。そしていかにも包丁然としたその姿。「包丁にとって大事なのはとにかく切れること。見てくれではない」とでもいわんばかりの断固とした男気溢れるスタイルがむしろ凛々しく、新鮮にさえ感じられる。鍛冶屋魂、いや薩摩魂が込められた銘品である。