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ひとりの女性にまつわるあらゆるもの| PAPERSKY book club

まだまだ世界には知らないことがたくさんあるなあと思う。それは場所だけではなくて、考え方というか感情みたいなことも含めて。トルコ人のノーベル賞作家、オルハン・パムクが2008年に発表した『無垢の博物館』という小説がある。イ […]

01/27/2014

まだまだ世界には知らないことがたくさんあるなあと思う。それは場所だけではなくて、考え方というか感情みたいなことも含めて。トルコ人のノーベル賞作家、オルハン・パムクが2008年に発表した『無垢の博物館』という小説がある。イスタンブールに暮らす青年ケマルとまだ10代の少女フュスン。ケマルは10年以上も叶わぬままフュスンに思い焦がれる。別の男性と彼女が結婚しても思いは変わることなく、遠縁の親戚という立場を利用し、週に数度は家を訪れ夕食をともにし、こっそりなにか持ち帰る。そう、彼女にまつわるモノをとにかくすべて集めつづけ、最後にその収集品で博物館をつくるという話だ。イスタンブールの街~石畳の道と古い建物、薄汚れた映画館、売れない業界人が集まるカフェなどを舞台に、不気味にも一途な彼の半生が描かれる。
ここから先が不思議なのだが、2012年、オルハン・パムクは彼が集めた(という設定の)膨大なものを収蔵する博物館「The Museum of Innocence」をイスタンブールにつくってしまった。小説のエピソードは、ジョゼフ・コーネルの箱のようにひとつの箱のなかで表現される。たとえば映画館のチケット、無数の吸い殻、ベッドで失くしたイヤリング、レストランのメニューやグラス。博物館の場所は彼女が住んでいた(という設定の)アパートを買い取ってつくったという徹底ぶりだ。そしてこの博物館のカタログが本書『THE INNOCENCE OF OBJECTS』。「なぜこんな奇妙な博物館をつくったか?」という質問にオルハンは、「小説家になぜこんな小説を書いたのか?とは訊かないでしょう」と答える。
世界にはまだまだわからないことがたくさんある。
The Museum of Innocence
Cukurcuma Caddesi, Dalgic Cikmazi, 2, 34425, Beyoglu Istanbul, Turkey
+90 212 252 9738
www.masumiyetmuzesi.org
The Innocence of Objects Orhan Pamuk ABRAMS $35.00
 
This story originally appeared in PAPERSKY’s ARGENTINA | ART Issue (no.43)