磨き込まれた共同浴場 道後温泉本館

ヨーロッパを旅していると、歴史的な建造物が今なお現役で利用されていて驚くことがある。教会や大聖堂はもちろん、劇場、学校、パブなど、数百年前を経た建物がそのままに、当たり前のように使われている。そうした建物は町の人々の誇り […]

12/10/2009

ヨーロッパを旅していると、歴史的な建造物が今なお現役で利用されていて驚くことがある。教会や大聖堂はもちろん、劇場、学校、パブなど、数百年前を経た建物がそのままに、当たり前のように使われている。そうした建物は町の人々の誇りであり、使い続けることでまた、過去から現在、未来へと人々の暮らしを繋げていく役割をも担っている。日本の文化財と呼ばれる建造物は、その多くが木造建築であるため、耐震や安全面において保存していくのが難しいとされるており、それゆえかつて学校や公会堂、銭湯など、生活の場として利用されてきた建物をそのままの形態で活用する例は数少ない。資料館として改修されたり、一般の立ち入りを禁止して外観のみ保存するというケースが多いようだ。
そんな文化財保護事情において、愛媛県松山市・道後温泉にある「道後温泉本館」は、今でも共同浴場として利用されている、貴重な場所である。温泉街にひときわ目立つ三層楼の木造の湯小屋は、明治27年に建築され、それから100年以上もの間、共同浴場として地域に根ざしてきた。1階に「神の湯」、2階に「霊の湯」という浴場があり、2階や3階の広間や個室では、貸し浴衣やお茶とお菓子のサービスが付く。銭湯感覚で通う地元の人々から観光で訪れた人々まで、幅広いくつろぎの場を提供してくれる。
早朝、振鷺閣の太鼓が鳴り響くのを合図に、地域の人たちが朝湯へと向かう。湯口からはアルカリ性のなめらかな湯が豊富に湧き、訪れる人たちは頬を赤く染めながら湯浴みに興じる。道後温泉本館の保存修復案もあがっていたが、その計画は温泉施設としての機能を維持したまま進められることになり、地域の人たちの大切な日課は、建物とともにしっかりと守られることとなった。この場所を訪れるとき、いつも印象的なのが、雑巾を片手に、廊下や柱、窓枠など、至る所を掃除している人の姿が常にあることだ。隅々までぴかぴかに磨き込まれた建物は、そこに刻み込まれた記憶とともに、これからも受け継がれていくことだろう。こうした建物が人々の暮らしの中で、生き生きと輝き続けることを願ってやまない。