イギリスを泳ぎまくる|ロジャー・ディーキン

作家、映画作者、環境保護主義者として知られる、ロジャー・ディーキンの楽しみは、オープンウォータースイミング ──つまり屋外で泳ぐこと。2006年に発行され本国でベストセラーになったという本書は、タイトルにふさわしくイギリ […]

12/10/2009

作家、映画作者、環境保護主義者として知られる、ロジャー・ディーキンの楽しみは、オープンウォータースイミング ──つまり屋外で泳ぐこと。2006年に発行され本国でベストセラーになったという本書は、タイトルにふさわしくイギリス全土を泳ぎまくった一大紀行文となっている。旅のスタートは1996年、イングランド東部サフォーク、自宅の農場の裏にある堀から始まる。水のなかで彼は思う、「どこまでも泳いでいって、美しい日を大いに讃えよう」 。雨が地面に落ち川に流れこみ、時間をかけて海へと注ぎこむように、彼はゆっくりと、その土地土地で泳ぐことを楽しむ。その視点は蛙のように水面と地上を行き来する。水中での思考は、自らの身体から、自然へ、そして歴史、文化へと得意の平泳ぎのように自由に伸びていく。南部の荒野ダートムーアを流れるアーム川では、サケの一団とともに泳ぎ、そのきっかけとなったマイク・ウェストブルックのジャズ曲『アーム・エスチュアリー(河口)』へと思いをめぐらすといった具合。
水のなかで書かれたかのような文章は、スピードも浮遊感も通常とは異なっていて、読んでいるうちに重力が明らかに軽くなるのを感じる。山岳文学ならぬ水中文学というジャンルがあれば真っ先に挙げたいくらいだ。岩礁プール、フィン川の横断、用水路、海峡、さらに氷の下…訪れた場所は30カ所を超え、体験に基づいた環境保護への思いは深い説得力がある。なじみのない地名や事象が頻出するので、傍らに地図とウィキペディアがあればもっと深く楽しめるだろう。
イギリスを泳ぎまくる ロジャー・ディーキン 著/青木玲 訳 亜紀書房 2625円
原書 Waterlog: A Swimmer’s Journey Through Britain Roger Deakin